研究課題
本研究課題は、「スーパーフレア星の観測から迫る太陽型星の磁気活動とダイナモ理論」というテーマで、スーパーフレア星など、磁気活動の活発な天体の詳細な観測研究を通して、太陽・恒星のダイナモ理論(磁場の形成・進化の問題) の解明へ挑むことを目指している研究である。2016年度は特に以下の3点について、研究実績が得られている。(1)京大3.8m新望遠鏡を用いた、近傍のスーパーフレア星モニタ観測への応用も目的とし、X 線観測衛星ROSAT による全天サーベイで強いX 線放射を示した太陽型星50 星について、岡山188cm 望遠鏡で分光観測を行なってきた。観測の結果、X 線強度の強い星は、Ca II8542 線など彩層由来のスペクトル線の強度で見ても、スーパーフレア星と同様に巨大黒点の存在が示唆された。その他、自転速度や年齢についても検討を行い、その結果を、主著の査読論文として出版した。(2)これまで行なってきたKepler衛星データでのスーパーフレア研究の継続として、太陽型星の巨大黒点の発生頻度やサイズ分布と、スーパーフレア発生との関係について、統計的な研究を行い、共著の査読論文(本特別研究員は第二著者)を発表した。巨大黒点の発生頻度と自転周期の相関や、太陽黒点発生頻度分布との類似性など、興味深い結果が得られている。さらに、黒点の寿命についても、ケプラー衛星データでの解析を、グループとして開始した。(3)Kepler 宇宙望遠鏡の観測データから発見された巨大黒点を持つ星やスーパーフレア星の中で、自転周期が比較的遅く、特に太陽に似ていると期待される星を中心に、米国Apache Point天文台3.5m望遠鏡での分光観測プロジェクトを開始し、2016年度末の時点で9半夜の観測を実施した。本研究は、ワシントン大学教授のSuzzane Hawley氏との共同研究として進めている。
1: 当初の計画以上に進展している
まず、従来行なってきた、岡山188cm望遠鏡での分光観測とケプラー衛星の黒点のデータ解析について、それぞれこれまでの成果を論文としてまとめることができた。ダイナモ理論に挑むための重要なパラメータである、「巨大黒点の寿命」や「差動回転」といったトピックについても、研究チームとしてケプラー衛星の光度曲線データの新たな解析手法の開発を開始しており、2017年度に順調に成果を出すことが期待できる状況である。そして、ケプラー衛星で発見されたスーパーフレア星及び巨大黒点を持つ星についての高分散分光観測プロジェクトを、ワシントン大学教授のSuzzane Hawley氏との共同研究という形で新たに開始した。現地での観測と日本からのリモートでの観測について、当初予想以上に順調に行うことができ、2016年度中に合計9半夜の観測を行い、多数のデータを取得することができている。データ解析についても特に問題なく行えているので、2017年度には初期成果を順調に発表できると考えている。分光データについてはさらに、先方からの招待と渡航費の援助により、2016 年9 月にデンマーク, オーフス大学を訪問し、Christofer Karoff 准教授と、LAMOST-Kepler サーベイ(中国の4mファイバー分光望遠鏡でのケプラー天体のサーベイ)のデータ等を用いたスーパーフレア研究の発展について議論と共同研究も開始している。将来に向けた議論という観点では、2018年度の本格稼働が予定されている京大3.8m望遠鏡や、同年に打上げが予定されているTESS衛星を用いたスーパーフレア研究計画についても、より具体的な検討を開始することができ、計画の検討状況を、複数の研究会で報告することも行なった。
まず、グループとして、ケプラー衛星のデータ解析に引き続き取り組み、黒点の寿命や差動回転についての結果を、2017年度中に取りまとめていきたいと考えている。また、太陽型星だけではなく、より低温の星(K,M型星)でのフレアについても、発生頻度や黒点サイズとの比較について、すでに結果を得ているので、取りまとめて行く計画である。後者は、系外惑星のハビタビリティの観点から重要性を増しつつあるので、その観点からも議論を急ぎたい。分光観測については、まず2016年度に開始した、Apache Point天文台 3.5m望遠鏡での観測プロジェクトを継続し、データ解析を完了させる。そして、「Keplerで見つかった磁気活動が活発な星は、巨大な黒点の存在を除いて、自転速度、年齢、有効温度など星のパラメータが太陽とそっくりなのか?」という観点や、「巨大黒点を持つ星でも、スーパーフレアを起こす星と起こさない星で、特にCa II HK線などの彩層線の強度の差はあるのか?」といった観点について、議論を行なっていきたいと考えている。2016年度中に論文を出版したX線の強い太陽型星は、X線での性質(X線温度・Emission Measure)について、コロナの物理量導出という観点で解析を行なっているので、こちらも結果を取りまとめていきたい(一部結果を2016年度秋季天文学会で発表済み)。また、2018年度以降には、京大3.8m望遠鏡での観測が開始されるので、それに向けた、フレアの分光観測計画の具体化、巨大黒点モニタ分光観測の観測星選定、分光データ解析手法のより一層の効率化も進めていきたい。
論文発表・研究会発表の情報を適宜載せている。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Publications of the Astronomical Society of Japan
巻: 69 ページ: 41(13pp.)
10.1093/pasj/psx013
Publications of the Astronomical Society of Japan (PASJ)
巻: 69 ページ: 12
10.1093/pasj/psw116
Proceedings of the IAU Symposium
巻: 320 ページ: 138
10.1017/S1743921316000430
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~ynotsu/