研究実績の概要 |
今年度は, NOによるDNAメチル化調節の実態解明と, SNO化阻害薬候補の同定に重点を置いて研究を進めた. まず, 胃粘膜上皮がん由来AGS細胞において, NO刺激時間依存的に特定のがん遺伝子プロモーターCpGアイランドの脱メチル化が誘導されることを明らかとした. また, そのがん遺伝子のmRNA発現はNO刺激に応答して一過性に増加する傾向が得られた. 以上より, NOはがん細胞において特定の遺伝子領域のDNAメチル化を減弱させることにより, 遺伝子発現を調節する因子である可能性が示唆された. つぎに, エピゲノム制御酵素のSNO化阻害薬のスクリーニングを行った. その結果, 分子特異的なSNO阻害能を有する候補化合物を得ることに成功した. 我々は先行研究より, タンパク質SNO化を介したエピゲノム制御酵素の機能異常は, 炎症性がんの悪性化を促進する可能性を明らかにしてきた. そこで, がん組織周辺での局所的なNO産生に起因して進展/悪性化することが知られる炎症性がんに対し, 当該化合物が抗がん活性を有するか否か, 細胞系および炎症発がん/悪性化モデルマウスを用いて検討を行った. その結果, 当該化合物は有意性をもって抗がん活性(腫瘍増殖, 転移能の阻害など)を示すことが明らかとなり, 炎症性がんに対する新規治療薬のリード化合物になる可能性が見出された. 本成果に基づいた特許出願(特願2017-05367)は平成29年3月に行われており, 私は発明者には含まれていないが, 主要な実験者として認められている.
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今後の研究の推進方策 |
1. 得られたSNO化阻害薬をリード化合物として, 構造活性相関を解析する. まず, 従来のものよりもSNO化阻害能が高い誘導体を作出し, 抗がん活性との関連性を評価する. また, SNO化阻害能が消失する誘導体も選定し, 当該化合物がエピゲノム制御酵素にどのように作用してSNO化阻害活性を発揮しているかを詳細に検討する.
2. 肺がん, 肝がん, 胃がんなどの慢性炎症に起因する各種発がんモデルを構築し, 当該化合物が普遍的な抗がん活性を示すか否かを, マウスを用いて検討する.
3. 今後, 先行研究により得られているNOによるエピゲノム調節機構や, SNO化阻害薬に関する知見を, エピゲノム異常を伴う神経変性疾患(アルツハイマー病やパーキンソン病など)へ応用をすることを視野に入れて研究を推進していく. そのために神経系の新規実験基盤を構築し, 初期的な知見を蓄積していく.
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