研究課題/領域番号 |
16J00388
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
冨岡 森理 北海道大学, 大学院理学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | イトゴカイ / 環形動物 / サンゴ礁 / 分子系統解析 / 多毛類 / ガレ場 / 開拓者 / 形態学 |
研究実績の概要 |
「ガレ場」とは死んだサンゴ(死サンゴ)が堆積した場所を差し,そこには死サンゴを加工して生物のすめる場所へと整備する役割を持つ「開拓者」が生息している.本研究では,イトゴカイ類をモデルに,「開拓者は化学的な加工器官をどのようにして獲得したのか」を検証することが目的である. 第1年度目は①標本採集,②分子系統解析,③成果発表に重点をおいて研究を行った. ①では,日本国内7箇所(北海道忍路,室蘭,厚岸,東京都小笠原父島,沖縄県西表島,大分県別府湾,宮崎県延岡)で標本採集を行い,開拓者イトゴカイを含む11種以上のイトゴカイ類の採集を行った.採集した標本は,②でDNA塩基配列を決定するために体の一部をエタノールで固定し,残りの部分は形態観察用にホルマリンまたはブアンで固定した. ②では,上記の標本の一部と,これまで採集していたイトゴカイ類標本8属31種よりDNA抽出・4領域(18S,28S,H3,COI)の塩基配列決定を行った.系統樹はRAxMLとMrBayesを用いて最尤法とベイズ法にて構築した. 上記の結果,イトゴカイ科は単系統群であり,これまでの分子系統学的研究同様ユムシ類の姉妹群であることが示された.イトゴカイ科内部については,Capitella属のOTUのすべてが単系統群を形成した.一方,少なくとも4属について単系統群ではない可能性が示唆された. ③では,②の結果を日本動物分類学会,環形動物国際会議で口頭発表を行ない,論文として投稿準備中である.さらに,本研究の過程で得られたCapitella teletaについては種境界解析に基づいて本種の広域分布を検証し,論文として出版した.Mastobranchus属の1種については新種記載論文を投稿中であり,他の未記載種についても記載論文を執筆中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1年度は①標本採集,②系統樹作成,③成果報告の3点を実施することを提示しているが,以下のとおり,おおむね順調に進展している. ①においては,高知および和歌山,調査航海には時間や費用等の制約があり本年度は採集に行くことは叶わなかったものの,沖縄西表島や小笠原等で複数種の開拓者イトゴカイの採集に成功している.開拓者イトゴカイの他にも,干潟や海草場から多くの標本を得ることができた. ②においては,分子系統解析を実施し,その結果を論文として投稿準備中であることから,計画よりも進展していると言える. ③についても,予定していた日本動物分類学会,環形動物国際会議にて口頭発表を行うことができている.
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今後の研究の推進方策 |
第2年度については,第1年目で実施している①標本採集,②分子系統解析,③成果報告と並行して,④形態観察を行う.④では,開拓者の分泌腺構造の性質や構造,分布を観察するために,組織切片標本の作製・観察を行う.分泌腺をpHごとに染め分けるアルシアンブルーや酸性分泌腺観察に用いられているマッソン‐トリクローム染色で分泌腺の性質や構造を観察し,ヘマトキシリン‐エオシン染色でその分布の観察を行う. さらに,分泌に関わる筋肉や神経の観察に共焦点レーザー顕微鏡での観察や分泌や穿孔に係る表皮の構造を走査型電子顕微鏡で観察する.ここで得られた結果を,②の結果にプロットし,系統間での比較を行い,化学加工器官の種類や分布がどのように変化してきたのかを推測する. 学会大会については,日本動物分類学会とThe Asian Marine Biology Symposiumへの参加を予定しており,研究発表,データの解析手法等の情報収集を行う.
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