「ガレ場」は死んだサンゴ(死サンゴ)が堆積した場所である.そこには死んだサンゴを加工して生物の棲める場所へと整備する役割を持つ「開拓者」が生息している.ガレ場のほか,砂浜や干潟など幅広い環境に生息することが知られるイトゴカイ類をモデルに「開拓者はどのようにして死サンゴ加工器官を獲得したのか」を検証することが本研究の目的である. 第2年度目は①分子系統解析,②形態観察の2点に重点をおいて研究を行ったほか,標本採集,成果報告も行った. ①では,昨年度決定した4遺伝子(COI,18S,28S,H3)を用いた系統解析を行ったものの,開拓者の進化史を解明するために十分な解像度をもつ系統樹が得られなかったことから,新たにミトコンドリアDNAに含まれる複数の遺伝子マーカーの塩基配列の決定を試みた.プライマーの設計,実験試薬やプロトコルを調整し,一部の標本については16S領域の塩基配列決定に至った.他の遺伝子マーカー(12Sなど)については,適切なプライマーの設計ができなかったために配列決定には至らなかった. ②では,化学的な加工器官として推測される分泌腺の観察を行うために,組織切片標本の観察(ヘマトキシリン・エオシン染色),走査型電子顕微鏡での表皮構造の観察を行った.開拓者イトゴカイのほか,構造を比較するために他の環境に生息するイトゴカイについても標本を作製し観察を行った.しかしながら,現時点では開拓者イトゴカイ特有の器官は発見できていない. さらに,本研究の結果の一部であるイトゴカイ科内の系統関係に関する論文を執筆し,投稿中である.また,本研究の過程で発見したMastobranchus属の1種については新種記載論文を執筆し,出版した.Scyphoproctus属の未記載種については学会にてポスター発表を行ったほか,新種記載論文の執筆を行っている.
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