研究課題
過冷却液体の密度や圧力を増やしていくと,粘性と共に緩和時間が劇的に増大していき,やがて液体同様ランダムな配置のまま凍結してしまう.これが,ガラス転移と呼ばれる現象である.ガラス転移の研究には長い歴史があるが,それを引き起こす物理的な機構については未だ明らかにされていない.高圧・高密度の過冷却液体が非常に大きな緩和時間を持つことが問題を困難にしている.最近この問題を解決するために,Swap モンテカルロ法(SMC)と呼ばれるアルゴリズムが注目を集めている.SMCとは,粒子の位置を動かす通常のモンテカルロ法に,異なる粒子の交換を組合せたアルゴリズムである.SMCは,通常のモンテカルロ法で緩和させる場合と比較して,最大で10の10乗以上早く平衡状態に到達できることが報告されている.SMCは,特に過冷却液体の平衡状態の性質を明らかにするため,多くの数値実験の研究で用いられてきた.しかし,SMCが,このような驚異的な効率を達成できる理由は,これまで明らかにされてこなかった.我々は,上の問題を解決するために,レプリカ液体論と呼ばれる手法を用いて理論的解析を行った.レプリカ液体論とは,スピンガラスの研究で用いられてきた,レプリカ法と液体論を組合せたものであり,液体から理想ガラスへの平衡相転移を予言する.この理論では,過冷却液体の遅い緩和は,理想ガラスの準安定状態によって引き起こされると解釈される.我々は,粒子の交換の効果を考慮したレプリカ液体論を構築して,SMCに対応するガラス転移点を計算した.その結果,SMCのガラス転移点は,通常のMCよりも高密度で起こることが明らかになった.SMCの効率は,このガラス転移点のシフトによって説明出来ると考えられる.
29年度が最終年度であるため、記入しない。
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The Journal of Chemical Physics
巻: 147 ページ: 234506~234506
10.1063/1.5009116