研究課題
発がんの超初期段階では、正常な上皮細胞層に、がん原性遺伝子変異が生じ、正常細胞と変異細胞が共存する上皮細胞層となる。この時、正常細胞と変異細胞の境界で細胞非自律的な変化が生じ、正常細胞に囲まれた変異細胞は、上皮細胞層から排除される(apical extrusion)。免疫系細胞が関与しないこの排除現象(apical extrusion)は、EDAC(Epithelial Defense Against Cancer)と呼ばれ、上皮正常細胞には、隣接する変異細胞を排除する機能が備わっていることを示唆している。しかし、正常細胞はどのように排除対象となる変異細胞を認識しているのか、そのメカニズムは明らかになっていない。本研究では、細胞内セカンドメッセンジャーとして働く細胞内カルシウム(Ca2+)に着目した。これまでに報告されている細胞間コミュニケーションは、主に化学的な刺激やメディエーターによるものがほとんどであり、波動(振動)という物理的なパラメーターの関与は知られていない。本研究の目的は、波動(振動)を介した全く新しい形の細胞間コミュニケーションを明らかにすることである。がん原性変異であるRasV12変異細胞が上皮細胞層にモザイク状に生じた時、まず、RasV12変異細胞で細胞内カルシウム濃度が増加し、連続して周囲の正常細胞において、同心円状に一過性の急激なカルシウム濃度の増加・伝搬が生じる現象(カルシウムウェーブ)を発見した。この現象は、周囲正常細胞のアクチン局在の変化を介して、apical extrusionを促進することにより、上皮恒常性維持に寄与していることが示唆されました。このことから、カルシウムウェーブは、上皮組織における新たな細胞間コミュニケーションである可能性が見出されたことは、本研究の重要な成果の1つであると思われる。
平成30年度が最終年度であるため、記入しない。
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