研究課題/領域番号 |
16J00487
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
森永 花菜 筑波大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 細胞間コミュニケーション / 活性汚泥 |
研究実績の概要 |
今年度は、昨年度作製した細胞間コミュニケーション検出株を活性汚泥に導入し、検出株が、活性汚泥中で細胞間コミュニケーションを起こす条件を明らかとすることを目的とした。活性汚泥中に存在することが知られているParacoccus denitrificansを用いて細胞間コミュニケーション検出株を作製したところ、検出株が、野生株では見られない強凝集性を示すことが明らかとなった。活性汚泥への定着には、検出株の凝集体形成を制御する必要がある。そのため、検出株が凝集性を示すメカニズムの解明が必要と考えられた。検出株の凝集体形成は、細胞間コミュニケーションに用いられるシグナル物質・C16-HSLの合成能を欠損した結果、細胞間コミュニケーションが起きなくなったことが原因であると考えられる。そこで、今年度はP. denitrificansにおける細胞間コミュニケーションメカニズムを明らかにすることを目的とした。まず、細胞間シグナルを受け取って遺伝子発現および形質に違いが出る細胞間シグナル濃度 (閾値) を検討した。さらに、C16-HSLの合成能を欠損した株を用いて、C16-HSL制御下の形質を解析した。C16-HSLによって凝集体形成が抑制していることに加えて、C16-HSL制御下の形質をより詳細に明らかにするため、P. denitrificansの集団形態を種々の顕微鏡観察法を用いて観察した。さらに詳しく集団内の細胞を1細胞レベルで観察するため、マイクロフルイディックデバイスを用いて解析を行った。また、C16-HSLによって集団形態を負に制御する因子を明らかにするため、遺伝子工学的手法を用いた解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度、活性汚泥中に存在することが知られているP. denitrificansを用いて作製した細胞間コミュニケーション検出株は、シグナル物質の合成能を欠損したことにより強凝集性を示すことが予想された。活性汚泥に細胞間コミュニケーション検出株を定着させ、細胞間コミュニケーションの有無を検出するためには、凝集体形成メカニズムを明らかとし、凝集体形成を制御する必要がある。このため、今年度はP. denitrificansの細胞間コミュニケーション機構を明らかとすることを目的とした。まず、細胞間シグナルを受け取って遺伝子発現および形質に違いのでる細胞間シグナル濃度 (閾値) を検討した。P. denitrificansは、C16-HSLが5-50 nMの低濃度においても、凝集体形成が抑制され、さらに、遺伝子発現にも有意差が出ることが、細胞間コミュニケーション検出株を用いることで明らかとなった。さらに、C16-HSLによって制御される集団形態をより詳細に観察するため、種々の顕微鏡を用いて解析を行った。その結果、P. denitrificansはC16-HSLによって、凝集体形成及びバイオフィルム形成を抑制していることが明らかとなった。また、1細胞レベルで集団形態を観察するため、マイクロフルイディックデバイスを用いて解析を行ったところ、P. denitrificansはC16-HSLを介して細胞間距離を維持していることが明らかとなった。P. denitrificansは非運動性細菌であるため運動によって広がることができない一方で、C16-HSLによって菌体感距離を保つことで、自身が生育するスペースを確保していることが考えられた。また、遺伝子工学的実験によりP. denitrificansはC16-HSLによって細胞外物質の生産量を抑制することで、集団化を回避していることも明らかとした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の解析によって、細胞間コミュニケーション検出株に用いたP. denitrificansが凝集体を形成するメカニズムの一部を明らかにした。今後も、P. denitrificansの細胞間コミュニケーションを介した集団化回避メカニズムを追うことで、活性汚泥中の細胞間コミュニケーションの実態解明に一歩迫れるのではないかと考える。また、本形質が活性汚泥中でどのような役割を担っているのかを明らかにするため、活性汚泥または、活性汚泥に存在する細菌とP. denitrificansの挙動を同時に観察して行く。 また、活性汚泥中では、P. denitrificansに限らず多くの細菌によって細胞間コミュニケーションが行われていることが予想される。そのため、作製したP. denitrificansの細胞間コミュニケーション検出株を用いて異種細菌との相互作用を明らかにして行く。P. denitrificansは自身が生産する膜小胞・メンブレンベシクルを介して細胞間コミュニケーションシグナルの伝達を可能にしていることが明らかとなっている。このため、P. denitrificansによるメンブレンベシクルを介したコミュニケーションが複合微生物系で、どのように働くかを明らかにすることで、活性汚泥中の細胞間コミュニケーションの実態に迫ることが期待される。
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