研究課題/領域番号 |
16J00535
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
畑山 要介 立教大学, 社会学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 社会学 / 経済社会学 / 社会システム / 構造的カップリング / 認証制度 / フェアトレード / 倫理的消費 / 自生的秩序 |
研究実績の概要 |
本年度は1.「理論的研究」2.「認証制度の研究」3.「倫理的消費をめぐる思想的研究」を展開した。
1.理論的研究:現代的な経済制御は、自己利益の追求の抑制という点では必ずしも捉えられない。倫理的消費者は、個人の自己実現を原動力としているし、認証制度は企業の利害関心やリスク処理を原動力としている。この新たな経済制御をめぐる理論的分析が、第一の研究である。本年度11月に刊行された拙著『倫理的市場の経済社会学』はその研究成果である。この研究では、自生的秩序論と社会システム論を接合させることで、個人の自由な消費選択が環境や社会に寄与するという現象に説明図式を与えた。 2.認証制度の研究:フェアトレード認証制度は、経済と社会を特殊な条件下でカップリングさせる装置、言い換えれば、市場の外部性を市場に内部化する変換装置として機能した。イギリス的な倫理的市場の本質は、この外部性の内部化という点にある。つまり、企業や消費者が自身の関心の追求として環境保護や社会的公正を選択することを可能とする制度の形成こそがイギリスにおけるフェアトレード普及の条件であった。こうした観点から、1998年代後半から2000年代にかけてFLO認証制度が果たした役割について分析を進めた。 3.倫理的消費をめぐる思想的研究:現代社会における倫理的消費の再-位置付けを試みるのがK.ソパーやF.トレントマンらの市民-消費者研究である。ソパーはオルタナティブ・ヘドニズムという概念で倫理的消費者を表現する。オルタナティブ・ヘドニズムとは、環境や社会的に配慮した消費を愉しむ享楽主義であり、個人の利害関心を回路とした市民社会の形成という考え方を内に含んでいる。環境保護や社会的公正を「禁欲」ではなく「享楽」として捉えることで、倫理的消費を通じた社会編成を自生的秩序の形成として理解することができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は当初の研究計画に従い、概ね順調に進展させることができた。とくに、理論的研究と実証的研究をバランス良く進めることができたという点は大きい。理論的研究においては、「経済と社会の構造的カップリング」という社会システム論的な発想を導入することによって、自生的秩序論だけでは捉えきれなかった側面が補完できるようになった。また、こうした理論的研究の進展に伴って、イギリスにおける認証型フェアトレードに対する理解も促進された。認証制度の機能を「経済と社会の構造的カップリング」として捉えることで、経済制御の枠組みが「道徳規範による外部制御」から「希少性・リスクを通じた内部制御」へと移行する過程の一側面としてフェアトレードの転換を理解できるようになった。フェアトレードに対する社会システム論的理解は、当該研究分野に新たな視座を導入するものであり、独創的かつ画期的な研究成果であると言える。ただしその分、フェアトレード団体や企業への聞き取り調査に関しては、さらに深部へと切り込んでいく必要があることも浮き彫りになった。これまで聞き取りをおこなってきた団体・企業に対しても、進展した理解に基づく再調査を試みていくことを予定している段階である。新たな課題が登場したのも、順調に研究が進展した結果であると考えられる。 なお、本研究成果については『倫理的市場の経済社会学』において公表しており、研究結果の公開という点でも本年度は順調に進展したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度においても、当初の研究計画に従い研究を促進していく。第1にイギリスでの聞き取り調査の継続であり、認証団体のみならず提携型フェアトレードを推進する団体にも聞き取りを行なっていく。第2に日本での聞き取り調査の継続であり。こちらも認証団体のみではなく、提携型フェアトレードの団体にもアプローチを試みていく。第3にフェアトレード市場の形成をめぐる日英比較であり、この比較の視点と枠組みは本年度の研究によって既に土台が形成されている。 この比較は、本課題の中心に位置している。というのも、申請者は、これまで、市民団体「オルター・トレード・ジャパン」や「生活クラブ」および「グリーンコープ」といった生協団体を中心として日本型モデルが形作られてきたことを明らかにしてきたが、2000 年代以降、FLJ のラベルの台頭と一般企業のフェアトレード・ラベル認証取得によって、イギリス型モデルが次第に浸透しつつある。集合的連帯を通じたフェアトレードから個人の消費関心を通じたフェアトレードへ、という移行は、1990 年代のイギリスにおけるフェアトレードの「転換」と多くの類似点を共有している。次年度は、こうした問題意識のもと、ラベル普及の枠組みと消費者におけるフェアトレードのイメージ形成に関する日本とイギリスの比較考察をおこないっていく。また、その結果については、国内学会、および国際学会にて発表していくことを予定している。
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