研究課題/領域番号 |
16J00535
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
畑山 要介 立教大学, 社会学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 社会学 / フェアトレード / 自生的秩序 / 消費社会論 / ライフスタイル / 倫理的消費 / 社会調査 |
研究実績の概要 |
2017年度は、主に計量分析を用いて倫理的消費者の実証的分析を実施し、2016年度の研究において明らかにした「市民-消費者」という理論的モデルが、日本においてどれほど経験的に当てはまるかを検討した。倫理的消費者は長らく日常生活の中で持続可能性と社会的公正を体現し、自らの社会的責任を自覚し積極的に社会に貢献しようとする「消費者市民」としてみなされてきた。しかし他方で、倫理的消費者の多くは、規範的なスローガンを内面化・共有した実践家などではなく、自身の楽しみと合理性を追求する自己実現の主体であるとも考えられてきた。ここから、倫理的消費者は社会貢献を志向する「消費者市民」モデルではなく個人的なライフスタイルを追い求める「市民-消費者」モデルで説明されうるのではないだろうか、という仮説が得られた。 この仮説を検討するため、2017年度は、2016年度に実施された「21世紀の消費とくらしに関する調査」のデータを用いて計量分析を行った。その結果、年齢の高い層においては従来の「消費者市民」モデルが当てはまるが、年齢の低い層においては「市民-消費者」モデルが当てはまるということが示された。若年層の倫理的消費者は、社会貢献意識との有意な関連が見られず、むしろ自ら積極的にアイデアを生み出し、創造的なライフスタイルを構築しようとする「クリエイティブ志向」との有意な関連が見られた。 以上の分析を通じて、日本における倫理的消費を全面的に英米圏のような「市民-消費者」モデルで説明することはできないが、若年層に限れば「市民-消費者」モデルで説明することができることが明らかとなった。この結果については、11月に開催された日本社会学会大会の一般報告において報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2017年度は、2016年度に引き続き研究課題の推進に積極的に取り組んだ。本年度に実施したのは、第一に「認証制度における生産者と消費者の関係の理論的分析」、第二に「倫理的消費者の実証的分析」である。研究課題全体は、概ね計画どおりに順調に進展していると評価できる。また、当初の計画に加えて、共同研究で得られた計量データを用いて分析を行い、倫理的消費をより立体的に捉えることで研究課題の遂行を試みた。本年度は、年度中に2回の国内学会発表を行ない、積極的に研究成果を発信した。また、社会学のみではなく、経済思想や農業経済学に関連する研究会にも積極的に参加し、領域横断的な研究ネットワークを構築しつつ研究課題の探求を進めた。さらに、研究課題の遂行に関連して、学術書の翻訳出版や教科書の分担執筆にも携わっており、自身の研究の深化のみならず研究成果の社会的・教育的還元も積極的に行った。以上の取組と成果を鑑みて、研究課題の遂行に向けて概ね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
研究3年目は、過去2年間の研究を取りまとめ、自生的秩序としての倫理的消費の制度化についての総合的な理論を提示する。それゆえ、本年度は研究結果の公表を中心としていく。第1に、フェアトレード・ラベルの制度化における自生的秩序の形成に関する分析を取りまとめ国内学会において発表する。また、第2にイギリスと日本のフェアトレード・ラベルの制度化に関する分析をISA(世界社会学会議)において発表する。そして、第3に、本研究全体の結果を報告書あるいは書籍としてまとめ、研究結果を社会に還元していく。本研究は、学問的意義と同時に、フェアトレード運動の展望という社会的意義も同時に併せ持つと考えられるので、社会的還元は非常に重要な意味を持つと考えられる。それゆえ、第4に、フェアトレード組織主催のカンファレンスにおいて積極的なアウトリーチ活動もおこなっていく。また、本研究課題に関連して参加している他の共同研究「社会的消費・質的高度化・消費主義の視点から見る21世紀消費社会の調査研究」や「消費者と市民の経済思想:戦後日本社会論の再構築」とも積極的に連携を図りながら、本研究の成果を広く応用していくことを試みていく。
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