研究課題/領域番号 |
16J00542
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
加茂 翔伍 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | ナフトキノン / 二量化 / ワンポット合成 / 蛍光 |
研究実績の概要 |
ナフトキノン二量体天然物 Juglocombin A/B から標的天然物 Juglorubin への変換法を確立した。またナフトキノン天然物 Juglomycin C の二量化法を検討し、Juglorubin のワンポット合成に成功した。さらに合成した Juglorubin 及びその誘導体の紫外・可視吸収スペクトルと蛍光スペクトルを測定した。 前年度に全合成を達成したJuglocombin A/B を用い、Juglorubin への変換法を検討したところ、Juglocombin A/B を酸素雰囲気下にモレキュラーシーブ3Aで処理することで Juglorubin が得られることを見出した。また反応条件を精査し、この骨格変換反応の進行に弱塩基と酸素の存在が必要であることを確認した。 続いて推定生合成原料である Juglomycin C の二量化を検討し、Juglorubin へのワンポット変換法の確立を目指した。反応条件を精査したところ、Juglomycin C を空気雰囲気下にリン酸バッファーで処理すると所望の二量化反応が進行し、側鎖の脱水が進行していない Juglorubin 前駆体が一挙に得られることを見出した。また前駆体の側鎖水酸基の脱水反応が酢酸/メタノール混合溶媒中で進行することを見出した。最終的にこれら二つの反応を集約し、Juglomycin C からワンポット、収率 48% で Juglorubin を得ることに成功した。 最後に合成した Juglorubin 及びその誘導体の分光学的特性を評価した。Juglorubin 類が紫外線照射下で橙赤色の蛍光を発することを発見し、蛍光スペクトルを測定したところ、630 nm に極大発光波長を有するブロードなスペクトルが観察された。また絶対量子収率を決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画 2 年目の課題であった Juglorubin の合成法を確立し、合成した Juglorubin 及び誘導体の分光学的特性を評価することができた。さらに 3 年目に計画していた Juglorubin のワンポット合成についても達成することができた。このように当初の計画を前倒しして研究を進めることができている。詳細を以下に示す。 前年度に全合成を達成した Juglocombin A/B から Juglorubin への変換法を検討し、酸素雰囲気下に弱塩基を用いる条件で所望の反応が進行することを見出した。Juglorubin はシクロペンタジエニルアニオンと二つのカルボン酸を有した高極性分子であり精製が困難であったが、種々の条件を検討し、Sephadex LH-20 を用いたゲルろ過と逆相シリカゲルカラムを用いることで、純粋な Juglorubin を得ることに成功した。さらに合成した Juglorubin とその誘導体を用い紫外・可視吸収スペクトルと蛍光スペクトルの測定を行った。Juglorubin 類が橙赤色の蛍光を発することを初めて明らかにし、さらに合成品の絶対量子収率も決定した。以上で 2 年目の研究課題の全てを達成した。 さらに 3 年目に予定していた Juglorubin のワンポット合成の開発にも取り組んだ。推定生合成原料である Juglomycin C の二量化反応を検討した結果、空気雰囲気下にリン酸バッファーで処理することで所望の二量化が進行し、Juglorubin 前駆体を与えることを見出した。また Juglorubin 前駆体の側鎖水酸基の脱水法を確立し、良好な収率で juglorubin を与えることを確認した。最終的に二つの反応を集約し、Juglorubin のワンポット合成法を確立した。
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今後の研究の推進方策 |
3 年目の研究計画に従い、これまでに合成した Juglorubin、juglocombin A/B、Juglomycin C 及びこれら天然物の誘導体を用いて生物活性試験を行う。まず、グラム陽性菌である枯草菌とグラム陰性菌である大腸菌を用い、抗菌活性を評価する。研究計画ではペーパーディスク法による抗菌活性試験を予定していたが、より一般的に用いられている微量液体希釈法を用いて最小発育阻止濃度 (MIC) の値を枯草菌と大腸菌それぞれに対して求める。さらに、抗菌活性に加えて、種々のがん細胞株に対する細胞増殖抑制活性を評価する。 生物活性評価に加えて、Juglorubin 及び関連天然物の生合成について合成化学的手法を用いて検証する。2 年目の研究で Juglomycin C から Juglorubin へのワンポット変換法を開発した。この反応において Juglomycin C の二量化が緩衝液中で自発的に進行し、Juglorubin の基本骨格が一挙に構築されることを明らかにした。これは実際の生合成においても、非酵素的な経路で Juglorubin が生産されている可能性を示唆している。また合成した Juglocombin A/B を緩衝液で処理すると juglorubin 前駆体が得られたことから、Juglocombin A/B は本反応の中間体であると考えられる。3 年目はこれまでの合成経路をさらに詳細に検討し、本化合物群の生合成についてさらに詳細な合成化学的な知見を得たいと考えている。
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