研究課題/領域番号 |
16J00548
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
信川 久実子 奈良女子大学, 理学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2020-03-31
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キーワード | X線天文学 / 低エネルギー宇宙線 / 超新星残骸 |
研究実績の概要 |
宇宙線加速の観測的研究の主流は、超新星残骸 (SNR) からのガンマ線を用いたGeV-TeV宇宙線の観測によって宇宙線(陽子)の密度やスペクトルを解明することである。しかし、これはπ中間子を生成できる280MeV 以上の陽子に限定される。宇宙線の加速理論では低い帯域(keV-MeV)から徐々にエネルギーを獲得するので、銀河宇宙線生成に対するSNRの寄与を解くカギは低エネルギー側にある。しかしこれまでは、データがない低エネルギー宇宙線の存在量は仮定して理論を構築し、「SNR が全ての銀河宇宙線を生成している」という結論に帰結していた。私は、SNRにおける低エネルギー宇宙線測定によって加速機構の全貌を解明しようと考えた。 この研究のため、X線天文衛星「すざく」のアーカイブデータを用いて、分子雲と相互作用していることが知られているSNRを中心に系統的な探査を行い、10天体以上のSNRから低エネルギー宇宙線陽子起源の可能性が高い中性鉄輝線を発見した 。これによりMeV宇宙線測定に成功し、周辺空間に比べ100倍以上エネルギー密度が高いことを明らかにした。以上の結果は、3つの査読付き論文として報告し、国際会議での招待講演を含む4件の口頭発表で報告した。 私はこの低エネルギー宇宙線研究を発展させるため、「ひとみ」搭載X線CCDの開発に携わってきた。「ひとみ」は、打ち上げ後2ヶ月で運用を停止したが、その観測期間の中で熱的X線を持つSNRを1つだけ観測した。それは、「すざく」で中性鉄輝線を見つけた天体の1つ、N132Dであった。 私は「ひとみ」X線CCD によるN132Dの観測データを解析し、結果を責任著者として査読付き論文に投稿し、受理された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまで超新星残骸 (SNR) における宇宙線研究は高エネルギー帯域 (相対論的宇宙線) の観測が主流だった一方、低エネルギー側についてはほとんど情報がなかった。「すざく」によるSNRの観測で、MeV宇宙線起源の可能性がある中性鉄輝線がわずか2天体で見つかっていただけだった。私は「すざく」を用いて系統的な探査を行い、10個以上のSNRでMeV宇宙線起源の可能性が高い中性鉄輝線を発見し、MeV宇宙線の測定に成功した。私はすでに銀河面の観測で、中性鉄輝線を用いてMeV宇宙線を測定する手法の有効性を実証していたが (Nobukawa et al. 2015, ApJL, 807, L10)、この研究手法がSNRでも大いに有効であることを実証した。 「すざく」のデータを調査している中で、突発天体MAXI J1421-613を中心とする半径6分の大きな円環状のX線放射を発見した。大きな円環状のX線放射として考えられる可能性の1つはSNRだが、スペクトル解析の結果、SNRの可能性は低いことがわかった。私は、その正体が円環の中心にある天体から出たX線のダスト散乱光であること、さらにその中心天体は短時間のX線フレアだったため、「すざく」の観測では中心天体は見えておらず、散乱光が遅れて観測者に届くことで円環状に見えているということを見出した。このようなダスト散乱による大きなリング状放射の観測は、これまで3例しかなく、「すざく」による発見は初めてである。
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今後の研究の推進方策 |
X線天文衛星「すざく」のアーカイブデータを用いた系統的な調査の結果、私はすでに10個以上の超新星残骸 (SNR) で、MeV宇宙線と星間物質の衝突で出る中性鉄輝線を発見した。そこで今後は、既存のGeV-TeVガンマ線のデータと合わせてMeVからTeVまでの宇宙線スペクトルを構築する。また赤外線によるH3+の観測等で、宇宙線による星間物質 (水素分子) のイオン化速度が測定されてきた (この方法では宇宙線の密度は測定できない)。水素分子のイオン化にもっとも大きく寄与するのはkeV-MeV帯域の宇宙線である。私が中性鉄輝線を発見したSNRの中には、大きなイオン化速度が発見されている天体が含まれている。これらの天体については、中性鉄輝線観測で測定したMeV宇宙線の密度を用いて水素分子のイオン化速度を説明できるか検討する。これにより、宇宙線の種となる粒子の注入量や宇宙線の冷却時間についてヒントが得られるだろう。また理論分野の研究者とも共同研究を行う。以上のように、他波長観測や理論研究と合わせて、宇宙線の初期加速解明を目指す。
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