研究課題
トマト果実の形成機構においては、植物ホルモンであるオーキシンおよびジベレリン(GA)が重要な役割を担うことが明らかとなっている。申請者はこれまでに、受粉およびオーキシンシグナルの活性化によってトマト子房におけるエチレン生成量が低下すること、また、エチレンはGA活性の調節を介して果実形成を負に制御している可能性を示した。本研究では、GAを介したエチレンによる果実形成の分子制御機構を組織レベルで解明することを目的とする。本年度は、laser microdissection(LMD)法を利用した子房/果実組織別トランスクリプトーム(RNA-seq)解析手法の確立および野生型の組織別発現データベースの構築を行うとともに、単為結果性を示す恒常的GA応答変異体(procera)の受粉もしくは未受粉子房の4組織(胚珠、胎座、中心柱、および子房壁)について組織別発現データを得た。野生型では受粉によってオーキシンまたはGAに関連する多数の遺伝子に胚珠特異的な発現誘導がみられた。主要なエチレン関連遺伝子群の発現は、開花時および未受粉子房の胚珠等の内部組織で比較的高く、そのほとんどが受粉によって抑制された。proceraにおけるこれらのエチレン関連遺伝子の発現は野生型に比べて強く抑制されており、トマト子房においてエチレンとGAの相互制御機構が存在する可能性が示された。さらに、受粉ならびにGAシグナルによる着果に関連した各子房組織における主要な遺伝子発現ネットワークを理解するため、weighted gene coexpression network analysis (WGCNA)により組織特異的な発現パターンを含む複数の共発現遺伝子群(モジュール)を同定した。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度は以下の研究を実施した。1.LMD法を利用した子房/果実組織別RNA-seq解析手法を確立した。トマトの各子房/果実組織からの高品質RNA抽出、in vitro転写による増幅、発現ライブラリーの構築、および次世代シーケンサー解析により高品質リードを得る手法を構築した。2.果実形成中の野生型トマトにおける組織別トランスクリプトーム解析を実施し、組織別発現データベースを構築した。3.単為結果性恒常的GA応答トマト変異体(procera)および単為結果性エチレン低感受性トマト変異体(etr1-1)の受粉もしくは未受粉子房に由来する組織別発現ライブラリーを構築した。さらに、procera変異体についてトランスクリプトーム解析および果実形成に関連した組織別共発現遺伝子群の同定を行った。etr1-1変異体の構築済み発現ライブラリーについては、予算の都合上次世代シーケンサー解析を次年度に繰越すこととした。以上、ほぼ計画の予定通りの研究が完了した。
1.etr1-1変異体の構築済み発現ライブラリーについて次世代シーケンサー解析を行う。得られた発現データと前年度に得た野生型およびprocera変異体の発現データを比較し、受粉、GA、およびエチレンに関連した果実形成における遺伝子発現ネットワークを構築するとともに、転写因子等のネットワークハブ遺伝子を同定する。いくつかのハブ遺伝子については発現誘導もしくは抑制トマト形質転換体を作出し、果実形成における機能解析を行う。2.エチレンとGAの相互制御機構にはそれぞれのシグナル伝達分子が関与する可能性が考えられる。これまでにトマト子房由来の転写産物を利用した網羅的yeast two-hybrid法によって相互作用が示唆された、エチレン応答因子ERFとGAシグナル伝達の中心制御因子PROCERA/DELLAのタンパク質間相互作用についてBiFC解析により検証する。
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Bioinformatic
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1093/bioinformatics/btx190
Nat. Protoc
巻: 11 ページ: 2376-2388
10.1038/nprot.2016.146