研究課題/領域番号 |
16J00613
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
李 虎 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 透明電極材料 / ITO / ZnO / 水素 / エッチング / 第一原理計算 |
研究実績の概要 |
透明電極材料であるITOやZnOは光電子デバイスのみならず、太陽電池等様々な分野においても重要な材料であり、次世代半導体デバイスの材料として期待されている。従来のSi系半導体材料と違って、透明電極材料のような半導体新規材料に対してのエッチング機構を解析する方法はまだ確立されていない。本研究では、プラズマエッチングにおける半導体新規材料のエッチング反応機構の解明を目的とし、イオンビーム照射実験と数値シミュレーション計算を同時に行った。以下に、研究活動概要を述べる。 イオンビーム照射実験では、CH4プラズマ中の活性種を一つ一つ取り上げITOとZnO表面に照射した。実験結果から、CHx系有機ガスを用いる透明電極材料のエッチングにおいて、CHxに含まれる水素は炭素の堆積を防ぎ、エッチング反応を促進することが明らかになった。水素イオンを照射することにより、水素含有層である変質層の形成とともにエッチング反応が促進されることが明らかになった。また、He+イオンを照射し、その変質層のエッチング特性を定量的に評価した。 水素含有層の形成とエッチングメカニズムの理解を目指し、第一原理計算を行うことにより、透明電極材料のエッチングにおける水素効果を定量的に評価した。本研究では、Turbomoleを用いてEmbedded Cluster法を導入し密度汎関数法に基づく計算を行った。水素を含んだZnOクラスターモデルを構築し、水素イオン照射による水素含有層を再現し、その水素含有層に対して各原子の脱離過程におけるエネルギー変化を比較した。シミュレーション結果から、水素の進入により、水素は酸素と結合し、OHを形成することにより、ZnとOの結合が弱くなる、または切れる結果が得られた。これらの結果からZnOの水素含有層がよりスパッタされやすくなることが分かる。本研究では、In2O3に対しても、同様な計算を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ビーム実験と数値シミュレーションを用いて、ITOとZnO薄膜の反応性イオンエッチング機構の解明を実験的に、理論的に捉えた。本研究で用いられたビーム実験、および、数値シミュレーションは、それぞれ独自の高度な技術を必要とする研究手法であり、理論・実験の両面から、ITOとZnOの反応性イオンエッチング機構の詳細を明らかにした。また、本研究は、ITOとZnOのエッチング特性に関して、プラズマ中の高エネルギー水素イオン入射による水酸(OH)基形成が強く影響する事を示したばかりでなく、入射イオン衝突による結晶粒の微細化が、極めて大きく影響することを、初めて実験的に明らかにしたという点で、画期的で極めて意義深い。本研究で示された、結晶粒界形成によるエッチング増幅効果は大方の予想を超えるものであり、そのため、本研究に関して「計画以上に進展している」と評価される。
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今後の研究の推進方策 |
ビーム実験と数値シミュレーションを用いて理論・実験の両面から透明電極材料であるITO、ZnOとCHx系有機ガスに含まれるイオンとの反応について理解を深めることができた。本研究の結果から、入射イオン衝突による結晶粒界形成し、さらにエッチング増幅効果がみられた。現在は、結晶粒界形成によるエッチングメカニズムの解明に取り組み、He+イオン照射済の材料の表面に対し、表面分析等を行う研究を引き続き継続中である。さらに、ITOエッチングに対し、高エネルギー入射領域において、CHイオンとCH3イオンは同じエッチング反応性を示す一方、低エネルギー入射領域においては異なる反応性を示しすことが明らかになった。現在、低エネルギー領域に注目して、研究を継続している。本研究により得られた結果から、半導体デバイスの微細加工おける低ダメージエッチング、特に、原子層レベル制御を要求される低エネルギーエッチング反応機構の解明が期待される。
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