研究課題/領域番号 |
16J00627
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
米田 勇祐 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 励起エネルギー移動 / 超高速分光 / 光合成反応 / 二次元電子スペクトル分光 / 光捕集系 |
研究実績の概要 |
本年度は、強い相互作用系として、電子供与性溶媒中の色素系における超高速電子移動およびハイブリッド型光合成アンテナの超高速エネルギー移動についての研究を行った。 電子供与性溶媒中の色素系における超高速電子移動に関する研究では、電子受容性色素としてテトラセン誘導体、電子供与性溶媒として種々のアニリン誘導体を用いて、広帯域ポンププローブ測定を行なった。これらアニリン誘導体は、置換基によって電子移動速度が異なるため、系統的な研究が可能である。また、広帯域ポンププローブ測定では自作の波長変換器を利用することによって10フェムト秒程度の高い時間分解能を得ることができ、これによって1500cm-1程度までの振動のコヒーレンスを実時間上で観測可能である。実験結果の詳細な解析により、高波数振動のコヒーレンスは電子移動速度によらず位相緩和時間が保たれているが、低波数振動のコヒーレンスは、電子移動速度の上昇とともに位相緩和時間が減少して行くことが明らかとなった。このことから、低振動数の振動モードが電子移動反応とカップルしていることが示唆された。 ハイブリッド型光合成アンテナに関する研究では、前年度までに、エネルギー供与性分子である人工色素の発光波長を変化させることによって、ドナー蛍光・アクセプター吸収のスペクトル重なり積分の値がエネルギー移動速度に与える影響を調査し、その結果、エネルギー移動速度は単純にスペクトルの重なり積分に比例しないことを明らかにしている。本年度は、この従来の一般的なエネルギー移動機構(Forster resonance energy transfer, FRET)の範疇を越えたエネルギー移動機構に関する考察を行った。学会発表等での議論の結果、スペクトルの重なり積分が大きくなりすぎると、超高速なエネルギー移動は熱的な緩和に律速されると結論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電子供与性溶媒中の色素系に関する研究では、高い時間分解能を持った広帯域ポンププローブ測定を種々の電子移動系に応用することで、低振動数~高振動数の振動モードのコヒーレンスと電子移動速度の相関を明らかにすることができた。これにより、強い相互作用系におけるコヒーレンスの役割に関する理解が進んだものと考えている。この内容は2018年7月開催のXXI International Conference on Ultrafast Phenomenaにおいて発表受理され、発表後Proceedingsが出版される予定である。 また、ハイブリッド型光合成アンテナに関する研究では、ドナー蛍光・アクセプター吸収のスペクトル重なり積分とエネルギー移動速度の関係を系統的に調査することによって、超高速なエネルギー移動に関する新たな知見を得ることができた。現在、この内容を論文として投稿準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ハイブリッド型光合成アンテナに関する研究内容を論文としてまとめていくため、ポンプ・プローブアニソトロピー実験を行い色素配向に関する情報を調べる。 また、二次元電子スペクトル測定システムの改良を進めていく。二次元電子スペクトル測定システムに関しては現在までに、フォトンエコー信号を発見している他、平成29年度研究室に導入されたマルチチャンネルCMOSアレイ検出器を用いて信号を検出するプログラムを構築している。今後、さらに高いシグナルノイズ比でデータを取得するために、露光時間や遅延ステージとの同期パラメータを調整していく他、電子供与性溶媒中の色素系やハイブリッド型光合成アンテナ等の実際の系への応用も行っていく。
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