研究実績の概要 |
核反応の微視的記述において、核力に基づいた原子核間の光学ポテンシャルの構築が重要な役割を果たす。微視的光学ポテンシャルは核子間有効相互作用を原子核密度で畳み込む「畳込み模型」によって構築できる。畳込み模型では有効相互作用として、Brueckner-Hartree-Fock(BHF)法により核力から導出されるg行列有効相互作用(g行列)が広く用いられている。本研究では、カイラル有効理論(Ch-EFT)から決定された2核子力と3核子力にBHF法を適用することで、新たなg行列の構築と核反応における3核子力効果の分析を行った。 BHF法により導出されるg行列は非局所性を持ち、数値的に求まるため、畳込み模型に直接適用することは容易でない。そのため求まった非局所g行列と等価な性質を持つ局所g行列の構築が必要となる。その際、光学ポテンシャルに重要な寄与を持つエネルギー殻上の近傍におけるg行列の性質に着目することで、精度良く局所g行列が構築できることを確かめた。 今年度は、Ch-EFTの核力を用いたBHF法によるg行列の計算を広範囲のエネルギー領域で実行し、求まった非局所g行列から局所g行列を構築した。そして新たに構築した局所g行列を畳込み模型に適用することにより、核子-原子核弾性散乱および3He, 4He-原子核弾性散乱を系統的に解析した。Ch-EFTの核力に基づく局所g行列を用いた解析で、調整パラメータを導入することなく断面積や偏極分解能などの実験データを再現することに成功した。また、Ch-EFTの3核子力がこれらの散乱を記述する光学ポテンシャルに対して斥力的かつ吸収的な効果を与えることを明らかにし、特に3He,4He-原子核弾性散乱においては3核子力効果により断面積が角度分布の後方で小さくなることを確かめた。
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