研究課題/領域番号 |
16J00744
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
陳 宣聿 東北大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 水子 / 嬰霊 / 台湾 / 胎児 / 生命観 / 中絶 |
研究実績の概要 |
本研究は、胎児や子どもに対する弔いの儀礼の広がりという新たな宗教現象が、如何に異なる宗教及び社会情勢の中に展開していくことかを検討するものである。それを明らかにするため、報告者は日本の「水子供養」と台湾の「嬰霊慰霊」を対象に、比較研究を行った。 これまでの研究において、報告者は日本における水子供養に焦点を当て、「メディアにおける水子供養の表象」と「宗教施設における行われた水子供養儀礼」の二つのプロセスに分けた。前者に関しては大衆雑誌記事を中心に日本における水子供養の発生、流行と変容について考察を行い、後者においては宮城県の仏教系宗教施設を中心に考察を行った。 該当年度において、報告者は日本における調査範囲を広げ、新宗教教団・生長の家、神道・八王子子安神社など、複数にわたる宗教施設を視野に入れ、境内空間の配置、出版物の内容、及び関係者への聞き取り調査を行い、研究を進めた。 他方、台湾において、嬰霊慰霊の多様性を把握するために、今年度から報告者は台湾に実地調査及び資料収集を展開した。実地調査に関して、報告者は台湾北部に位置する龍湖宮、宝宝聖霊殿、八路財神廟、新荘地蔵庵、龍山寺、中華仏教文化館の六つの宗教施設で調査を行い、異なる宗教施設に行われた嬰霊慰霊の儀礼を網羅的に記録した。その中に、特に早い時期に嬰霊に関する儀礼を執り行うようになった龍湖宮が、台湾における嬰霊慰霊の展開において重要な役割を果たしていることが分かった。また、資料収集の部分において、報告者は台湾の国家図書館、中央研究院民族研究所、国立台湾大学の図書館などを利用し、嬰霊慰霊に関連する新聞、雑誌記事、宗教団体の出版物などを集めた。上記する資料の考察を通して、嬰霊がメディアに登場する様相、宗教団体の嬰霊に対する位置づけを明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
◎日本と台湾における「胎児への弔い」諸相の体系化作業が進展した 報告者は日本及び台湾において、複数な宗教施設に渡って調査を実施した。胎児や子どもに対する弔いの儀礼は多様性を持ち、一つの形式に限らず、地域や宗教施設によって、儀礼も異なる様相を示している。ただし、このような新たな儀礼は過去と断絶するのではなく、むしろ異なる宗教的職能者の裁量で、既存の儀礼を改編することが分かった。報告者は日本と台湾両地域での実地調査を通して、多様なる儀礼のあり方を収集した。それを概観することによって、「胎児への弔い」の多様なる儀礼の背後に潜む規則性を見出す礎になると考えられる。 ◎「水子供養・嬰霊慰霊」に関する言説の収集・分析作業が進展した 1970年代後半から1980年代に渡る「水子ブーム」の一側面はメディアにおける「水子霊」や「水子供養」などを取り上げる題材の集中である。修士論文において、報告者は雑誌記事、書籍を中心とする日本の「水子供養」の議論を分析してきた。それを踏まえ、該当年度において、報告者は台湾の嬰霊慰霊に関わる書物の収集・分析作業を展開した。多岐にわたる「胎児への弔いの儀礼」と違い、マスメディアを通して広がった言説は類似性を示し、「水子供養」、「嬰霊慰霊」に対して、社会における共通認識に影響を与えると考えられる。今後も引き続きメディアに反映された水子供養、嬰霊慰霊の表象を分析し、言説と儀礼を合わせて複合的な考察を進めていく必要がある。 上記する進展を通して、日本と台湾における「胎児への弔い」の現象を把握することができ、研究成果の一部は、学会発表に公表した。
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今後の研究の推進方策 |
該当年度において、報告者は儀礼の多様性を意識して実地調査を行った。 今までの研究成果を引き続き、多様なる儀礼への観察を通して、「胎児への弔い」の儀礼の体系化作業を進める予定である。それを通して、非組織的な信仰である「胎児への弔い」の伝播という課題を明らかにすることができると考えられる。 また、今まで着目してきた多様性以外、研究の深みを追求し、特定の宗教施設にケーススタディを行う必要があると感じる。該当年度の調査を通して、台湾の北中部における宗教施設、龍湖宮、が台湾における嬰霊慰霊の広がりに肝腎な位置をしめすことが分かった。龍湖宮は「嬰霊供養の元祖廟」と自称し、当施設出版物の流通、嬰霊慰霊の儀礼形式は度々メディアに取上げられ、1980年代における台湾の嬰霊慰霊の展開に影響を与えた。台湾における胎児への弔いの発端を明らかにすることに、継続的な調査の必要性を感じている。 他方、文献資料の分析に関して、通俗的書物のほか、仏教を初めとする各宗教団体における水子・嬰霊関連の書物の影響力も看過できないものである。報告者は宗教団体の出版物についての収集と分析作業を展開する予定である。それを通して、胎児のいのちをどのように自身の教義の中に位置づけることが分かり、非組織的な信仰である「水子供養」、「嬰霊慰霊」の再解釈する過程も見出せると考えられる。 上記する方針に沿って、今後台湾における長期間的な調査が必要であると考えられる。
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