研究課題/領域番号 |
16J00744
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
陳 宣聿 東北大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 水子供養 / 嬰霊 / 台湾 / 堕胎 / 人工妊娠中絶 / 民間信仰 / 現代宗教 |
研究実績の概要 |
2017年度は主に台湾における夭逝した胎児や子どもを弔う「嬰霊慰霊」の儀礼に着目し、「台湾の嬰霊慰霊と日本の水子供養との関係性」を中心に調査を行った。 報告者はまず先行研究に取上げられた台湾の嬰霊慰霊の「日本伝来説」への検討を行い、これまでの調査成果をマクロレベルから、台湾の嬰霊慰霊と日本の水子供養との類似性と相違性を概観した。その後、両者の関係性を明らかにするために、報告者は台湾の研究機関の所蔵資料を利用し、新聞紙と戦後宗教団体が発行した出版物を分析をした。上記する分析によって、夭逝した胎児や子どもの総称としての「嬰霊」という言葉が台湾社会に広がる過程が分かった。 文献の分析以外、報告者は「嬰霊供養の元祖廟」と称された宗教施設、龍湖宮に実地調査を行った。2016年度に実施した基礎調査の成果を踏まえて、2017年度において、報告者は龍湖宮の儀礼の観察、関係者へのインタビュー及び出版物の分析をした。調査を通して、龍湖宮における嬰霊慰霊の展開が日本における呪術=宗教的大衆文化、新宗教教団の出版物の影響を受けたことがある一方、扶鸞という中国の交霊術の伝統とも深く関わることが分かった。従って、台湾の嬰霊慰霊は、直線的に日本の水子供養の輸入と改編というよりも、むしろ初期から多様なる宗教的要素が混交し、組み立てられていたと考えられる。 2017年度の研究成果は、2017年5月27日の印度学宗教学会、2017年7月1日の台湾宗教学会年会での口頭発表、及び学会誌『論集』での論文投稿を通して公表していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の達成度を判断した理由は、以下の二点になる。 まず、「嬰霊供養の元祖廟」龍湖宮のケーススタディーができたことは、本研究にとって一つ大きな進展である。台湾での長期間の滞在によって、インフォーマントとの連携が深まったため、当宮での聞き取り調査、儀礼の観察が前年度より順調に進んだ。それと同時に、文献の分析作業も進展し、実地調査で得た情報を合わせて分析することができた。 そして、儀礼の執行に携わる宗教的職能者との接触ができたことはもう一つ成果である。2016年度の調査において、報告者は嬰霊慰霊儀礼の観察、宗教施設の責任者などを中心に聞き取り調査を行った。これを踏まえ、道士などの宗教的職能者との接触ができたことは、2017年度の調査において一つ大きな進展である。儀礼の執行に携わる宗教的職能者は、一般の民衆と宗教的基盤を共有しながら、修行訓練や経典を通して専門的知識や技法を習得した。これらの知識を介して、夭逝した胎児や子どもに位置づけに影響を与えると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度の調査状況を踏まえ、今後研究推進方策は、①歴史的視点の追加と、②夭逝した胎児や子どもを弔う儀礼の体系化作業2点を軸に推行する予定である。 ①歴史的視点の追加 本研究は夭逝した胎児や子どもを弔う儀礼の広がりを、一種の新たな宗教信仰現象と見なし、特に〈水子〉と〈嬰霊〉の表象が社会中に浸透する過程について検討を行った。その現代性の特徴を明らかにするために、仏教、道教の経典、及びその他の夭逝した胎児や子どもへの扱い方に関する古典文献の収集と検討も必要であると考えられる。歴史的な視点を加えることによって、宗教的職能者への理解も深め、一層立体的な水子供養及び嬰霊慰霊の現代性特徴を把握することができると考えられる。 ②夭逝した胎児や子どもを弔う儀礼の体系化作業 最終年度に向かい、報告者は今まで日本と台湾に調査してきた多様な儀礼の形式を体系化する作業を進める予定である。上記する作業を完成するため、補足調査を実施する必要性があると考えられる。そのため日本においては、水子供養を取り扱う神道系の宗教施設を調査し、他方、台湾においては、儀礼の追跡、及び関係者への補足インタビューを行う予定である。 上記する研究成果を生かし、今後も論文の執筆や学会発表を尽力し、研究成果を還元する予定である。
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