A-to-I RNA編集はRNA上のアデノシンがadenosine deaminase acting on RNA (ADAR) 1またはADAR2によってイノシンに置換される転写後修飾である。本研究では、RNA編集がヒトにおける薬物代謝関連遺伝子の発現と機能に与える影響を解明することを目的とした。分化型HepaRG細胞において、siRNA導入によるADAR1またはADAR2のタンパク質発現量の低下を確認した上で、主要薬物代謝酵素であるシトクロムP450 (CYP) の各分子種のmRNA発現量を評価した。ADAR1ノックダウンによってCYP3A4 mRNAの顕著な発現増加が認められたことから、CYP3A4はADAR1による強い負の発現制御を受けることが示された。ADARsノックダウンによるCYP3A4 mRNA安定性の変化は認められなかったことから、ADAR1はCYP3A4の発現を転写レベルで制御することが示された。CYP3A4の発現を転写レベルで正に制御することが知られている恒常的アンドロスタン受容体 (CAR)のmRNAおよびタンパク質発現量がADAR1ノックダウンによって増加したことから、ADAR1がCARの発現を負に制御することがADAR1ノックダウンによるCYP3A4発現増加の一因である可能性が示唆された。また、この負の発現制御において、ADAR1がCAR mRNAのスプライシングを変化させている可能性が示唆された。以上より、RNA編集酵素ADARは主要薬物代謝酵素であるCYP分子種およびその発現を制御する転写因子であるCARの発現を制御することが示され、ヒトにおける薬物代謝制御におけるRNA編集の重要性について有用な知見を得ることが出来た。
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