研究課題
今年度はフェムト秒レーザー誘起テラヘルツ電磁波発生現象を利用した磁性強誘電体における電気磁気ドメイン可視化実現に向け、磁性体におけるテラヘルツ電磁波発生現象の開拓を行った。まず、フェリ磁性を示すLiFe5O8およびBaFe12O19を対象として、室温でフェムト秒レーザーを照射することで、テラヘルツ電磁波が発生することを初めて見出した。さらに、テラヘルツ帯および赤外・可視域における光学特性やテラヘルツ電磁波発生の外部磁場依存性、入射するフェムト秒レーザーの偏光角度依存性を詳細に測定した結果、テラヘルツ電磁波の発生機構がフェムト秒レーザー誘起高速磁化変調による磁気双極子放射であることを明らかにした。これらの物質では、磁化と発生するテラヘルツ電磁波の偏光が一意に対応するため、発生するテラヘルツ電磁波の偏光方向を特定することで、磁化の方向をベクトル分解することが可能である。このことを利用して、LiFe5O8において、飽和磁場以上の磁場を印加しながらテラヘルツ電磁波発生の空間分解を行い、磁場下の一様なシングルドメインをベクトル分解して可視化することに初めて成功した。LiFe5O8を対象とした研究結果は筆者が筆頭著者としてACS Photonics誌に出版されており、さらに国際会議のICMMにおいてポスター発表を行った。これまで、磁性体中の磁気ドメインをテラヘルツ電磁波発生を用いて可視化した例は報告されておらず本研究が初めてである。また、本研究の目的である磁性強誘電体中の電気磁気ドメインの可視化およびその光による超高速制御実現のためには、分極由来のテラヘルツ電磁波発生と磁化由来のテラヘルツ電磁波発生を区別して検出することが必要不可欠である。故に、本研究の成果である磁化由来のテラヘルツ電磁波発生およびそれを利用した磁気ドメインの可視化は非常に意義のある成果である。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、磁性強誘電体Co3B7O13Iにおいてフェムト秒レーザー励起テラヘルツ電磁波発生を初めて見出し、それを利用した分極ドメインの可視化に成功している。また、フェリ磁性体LiFe5O8においてはフェムト秒レーザー励起テラヘルツ電磁波発生を見出し、さらにその発生機構が高速磁化変調によるものを明らかにした。さらに、テラヘルツ電磁波発生を利用して外部磁場下の磁気ドメインをベクトル成分を含めて可視化することに初めて成功した。また、同様にフェリ磁性体BaFe12O19においてもフェムト秒レーザー励起高速磁化変調によるテラヘルツ電磁波発生を見出した。特にBaFe12O19を対象とした実験においては、励起レーザーおよび発生するテラヘルツ電磁波の試料内の伝搬に伴う吸収等の効果を排除できる反射配置のテラヘルツ電磁波発生光学系を新たに構築し実験を行った。新たに構築した光学系を用いて、テラヘルツ電磁波発生の励起波長依存性や偏光依存性を詳細に測定した結果、BaFe12O19からのテラヘルツ電磁波発生の機構が、Feのd-d遷移の共鳴励起による磁化の高速変調に由来するものであることを明らかとした。本研究の目的である磁性強誘電体における電気磁気ドメインの可視化ならびにその光による超高速制御実現実現のためには、磁性強誘電体中の分極由来のテラヘルツ電磁波発生および磁化由来のテラヘルツ電磁波発生をそれぞれ区別して測定することが必要不可欠である。本研究ではすでに分極、磁化由来のテラヘルツ電磁波発生を見出しており、それを利用して分極ドメインおよび磁気ドメインをそれぞれ可視化することにもすでに成功している。また、それぞれのテラヘルツ電磁波発生の発生機構の詳細についてもすでに明らかにしており、おおむね順調に進展しているといえる。
平成29年度ではテラヘルツ電磁波発生を利用した電気磁気ドメインの可視化、およびその光による超高速制御を目指す。まず、これまでにテラヘルツ電磁波発生を見出した磁性強誘電体を対象に、分極由来のテラヘルツ電磁波発生と磁化由来のテラヘルツ電磁波発生をそれぞれ別々に測定することで、試料内の電気磁気ドメインの可視化を行う。つづいて、電気磁気ドメインの光による超高速制御実現に向け、ポンプパルスとしてフェムト秒レーザーやサブピコ秒テラヘルツパルスを照射可能な光学系を構築する。ドメイン制御には円偏光のフェムト秒レーザー照射による逆ファラデー効果や、磁性強誘電体に特有の素励起であるエレクトロマグノンを利用する。例えば、強(フェリ)磁性体Ba2Mg2Fe12O22ではテラヘルツ領域に巨大な振動子強度を有するエレクトロマグノンのモードが存在することが明らかとなっている。このエレクトロマグノンモードを、1 MV/cm程度の高電場を有するサブピコ秒程度のパルス幅を有するテラヘルツパルスによって共鳴励起し、同程度の時間オーダーでの超高速な分極・磁気ドメインの制御を目指す。この時、ポンプパルスおよびテラヘルツ波発生用パルス間の光路差を自動ステージによって制御することで、励起後のテラヘルツ波発生の時間発展をモニターし、試料の各点におけるポンプパルス照射後の応答を観測する。このとき、光チョッパーを用いてポンプパルスのon/offを高速に切り換えることで高精度の測定を実現させる。本測定を種々の磁性強誘電体を対象に行うことで、逆ジャロシンスキー・守谷相互作用、磁気交換歪によるものなど多岐にわたる磁性・強誘電性の結合機構とドメインの動力学の相関を明らかにする。また、励起強度依存性や励起波長依存性を測定し、ドメイン変化の効率・時間スケールを定量的に見積もる。
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ACS Photonics
巻: 3 ページ: 1170~1175
10.1021/acsphotonics.6b00272