研究課題
今年度は、前年度に開発した周回積分を用いた電極の自己エネルギーの計算方法の更なる高速化を追求し、実空間擬ポテンシャル法コードRSPACEに実装した。電極自己エネルギーの構築に必要な一般化ブロッホ関数は非線形固有値問題を解くことによって得られる。周回積分型の固有値解法では、一般に解くことが困難な非線形問題を疎行列連立方程式に帰着させることで高速に解くことが可能である。前年度は、連立方程式の解法として双共役勾配(BiCG)法を用いていたが、計算時間が入射エネルギー点数に比例するため、大規模な伝導計算を行うことが困難であった。そこで、本研究では、クリロフ部分空間のシフト不変性に着目した高速解法であるshifted BiCG法を用いることで、自己エネルギーを複数エネルギーに対して同時に計算する方法を実装した。Shifted BiCG法では、BiCG法を用いた場合と比較して10~20倍程度の高速化を達成することができるが、スカラー・ベクトル積の更新やメモリの使用量が課題となることが分かった。更なる高速化を実現するために、櫻井-杉浦法のアルゴリズムを改良し、伝導計算に必要な固有ベクトルの一部のみを選択的に計算する方法の開発を行った。さらに、ベンチマークテストとして、分子架橋系(Al-C7-Al)と原子ワイヤー(Au-CO)の伝導計算を行い提案法の有効性を確かめた。そして、その成果を論文として纏め投稿した。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、前年度に引き続き、第一原理伝導シミュレーションにおいて計算のボトルネックとなっている電極の自己エネルギー計算の高速化に取り組んだ。学内の数理科学研究グループと共同で開発を進めており、クリロフ部分空間のシフト不変性に着目した高速解法や、周回積分型固有値解法である櫻井-杉浦法のアルゴリズムを変形し、伝導計算に必要な固有ベクトルの一部のみを選択的に計算する方法の開発を行った。また、いくつかのベンチマークテストを行い、提案法の有効性を検証した。開発した方法は効果的であるものの、当初予定していたトランスコリレイテッド法などの高精度な電子状態計算方法の開発や電気伝導計算コードへの実装については、進捗が予定よりもやや遅れている。
最終年度は、電気伝導計算コードの高速化と電子状態計算コードの高精度化をさらに推し進めると共に、これまでに開発した計算コードを用いて大規模な電気伝導シミュレーションを実行し、次世代デバイスの候補であるIV族半導体ワイヤーの伝導特性の解析や複素バンド図を併用したトンネルトランジスタの解析を実施する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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