研究課題/領域番号 |
16J00934
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
岡田 大地 筑波大学, 数理物質科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 波長変調 / 光スイッチ / 光メモリーアレイ / レーザー / 有機混晶 / 自己組織化 |
研究実績の概要 |
研究計画において強誘電ポリマーであるPVDF-TrFEを用いての実験を計画していた。実際、PVDF-TrFEからなるポリマー球体および内部色素添加、そこからの共振ピーク観測までは実現した。閉じ込められた光の第二次高調波への変換が観測されることを期待したが、それらは得られなかった。一つの問題として、PVDF-TrFEの第二次高調波変換率が非常に低いことがあげられた。そのため現在、その他の非線形光学色素に着目し、材料の模索を行っている。 本年度は主に、有機材料からなる波長変調・光スイッチ特性有する光共振器開発に着目し実験を行った。第一にドナー・アクセプターの関係性にある異なるユニット数を持つ炭素架橋フェニレンビニレン分子(COPV)を用い、自己組織化および光学特性の評価を行った。COPV分子は、ドナー・アクセプターどちらの分子も集合化により非常に形の整った菱形の結晶を構築することを見出した。またこのドナー・アクセプター分子を混合して集合化することでドナー結晶中にアクセプター分子が分散した有機混晶が作成できることが明らかになった。これらの結晶は結晶自身が光増幅させる共振器として働き、レーザー発振特性が得られることが明らかになった。また混晶においては、アクセプター分子の存在により、ドナー分子の利得領域が変化し、発振波長をアクセプターの添加量によって変調できることを見出した。 第二に、光スイッチ分子である蛍光性ジアリールエテン(DAE)分子を用いて、集合化および光スイッチ可能な共振器開発を行った。結果として、用いたDAE分子は集合化法により真球および偏平状の球状構造体が得られることが明らかになった。またこれらの構造の違いから、異なる光共振特性が得られることを見出した。形状の違いより誘発される共振特性の変化は、理論計算からも明らかとなった。また、これらの構造体アレイの構築にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画に関する研究は、実現までに多くの改善点があり、今後実現のために試行錯誤していく必要がある。しかしながら、本年度は、有機低分子から得られた自己組織化構造体から非常に興味深い物性を見出すことに成功した。またそれらの現象に関する理解も深めることができた。炭素架橋フェニレンビニレン分子(COPV)に関する研究においては、有機混晶の作成及びそこからのレーザー発振の変調までを実現した。有機材料は、大きな格子定数故に分子結晶中に他分子を導入することが難しいことで知られる。しかしながら、類似の構造を持ち、またπ平面が巨大な側鎖によって囲まれたCOPVを用いることで有機混晶の作成に成功した。また、混晶中に含まれるアクセプター分子の量によりレーザー発振特性の変調に成功した。これまで、有機混晶を用いたレーザー発振波長変調に関する報告は無く、新しい波長変調材料を開発したと言える。 また、光スイッチ分子であるジアリールエテン分子を用いた研究においては、共振発光の光スイッチングを可能とする光共振器の開発を行えた。また、自己集合法を制御することで得られる偏平状の球状構造体からは、共振ピークが分裂した特異な共振スペクトルを得ることに成功した。また親水・疎水のパターニング基板上での直接堆積法により、DAE構造体が疎水パターンに沿って綺麗に配列する現象も見出した。これらは光スイッチ共振器であるとともに、光ディスプレイとしての可能性を提唱する結果である。 その他にもホウ素化合物結晶からの特異な発光特性も見出すことができた。 これらのことを考慮すると、今年一年で大きく研究を発展させることができたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、強誘電ポリマーであるPVDF-TrFEからなる球状構造体の構築や、内部色素添加、そこからの共振発光の確認までは行えている。二次高調波の閉じ込めを実現するには、より強い光を内部に閉じ込める必要がある。また、二次高調波に変換された後の材料への吸収を抑制するため、発光の1/2倍波長が、PVDF-TrFEの吸収に重ならない蛍光色素を添加し、レーザー発振を実現させる。またPVDF-TrFEの非線形光学効果はあまり強くないため、他材料の検討も行う必要がある。 また、最終年度であるため、論文執筆に向けた研究遂行を行う。光スイッチ共振器に関する物性は、親水・疎水のパターニングにより、構造体アレイの構築はできているので、自己集合化法をさらに検討することで、共振器として働く構造体のアレイ構築を目指す。 ホウ素化合物から得られる特異な発光特性及び多色発光を示す有機結晶に関する研究についても積極的に進める。本研究は、なぜ特異な発光特性が得られるのか、また発光色の違いは何から生まれるのか、それらを明らかにするために、本ホウ素化合物の基礎的な物性から評価していき、その解決を目指す。また自己集合プロセスにも着目し、その集合化過程も明らかにしていく。そして、論文執筆を行う。
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