研究課題/領域番号 |
16J00973
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
吉野 優香 筑波大学, 人間総合科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 感謝感情 / 負債感情 / 直接互恵性 / 向社会的行動 / 制御焦点理論 |
研究実績の概要 |
本研究は,感謝感情と負債感情が異なる動機づけプロセスにより向社会的行動を促進し,対人関係の形成・維持・発展に寄与することを表したプロセスモデルの構築を目的としている。この目的を踏まえ本年度の実施計画を定めたが,実施計画の遂行過程において,感謝感情と負債感情が対人関係の形成に関わる各要因に及ぼす影響の検討に重点を置いた実施計画を進めるべきと判断し,4点の研究を実施した。以下に,主要な結果である2研究について報告する。 第一の研究は,対人関係の形成に関わる要因の1つである「利益供与者への向社会的行動」に対して,感謝感情と負債感情が及ぼす影響を明らかにすることを目的とした実験室実験であった。参加者は友人のペアとした。実験の結果,友人に対する感謝感情の経験よりも,友人に対する「すまなさ」である負債感情を感謝感情と共に経験する方が,友人への向社会的行動を促進することが明らかになった。この結果は,感謝感情と負債感情を共に経験することが持つ直接互恵性の促進効果をペア実験により明らかにした知見であり,感謝研究の前進に価値ある知見であるといえる。 第二の研究は,「利益供与者への向社会的行動」に対して,感謝感情と負債感情が及ぼす影響の過程を,制御焦点理論の観点から明らかにすることを目的とした質問紙調査であった。調査の結果,感謝感情と負債感情が制御焦点のモードを介し,利益供与者への向社会的行動の促進に至る過程を示し,その過程は,利益供与者との関係性により違いがあることを示した。利益供与者が友人の場合,感謝感情が主として利益供与者への向社会的行動に影響していた。利益供与者が他人であった場合,負債感情が主として,予防焦点を介し利益供与者への向社会的行動に影響していた。この結果は,感謝感情と負債感情が,向社会的行動をとる他者との関係性により,機能的に異なる可能性を示す有用な知見であるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,感謝感情と負債感情が対人関係の形成に関わる要因である「利益供与者への向社会的行動」「第三者への向社会的行動」に及ぼす影響を明らかにすることに重点を置いた実施計画を遂行し,4点の研究を行った。1点目の研究は,感謝感情と負債感情が「利益供与者への向社会的行動」に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした実験室実験であった。2点目の研究は,感謝感情と負債感情が,「第三者への向社会的行動」に及ぼす影響の過程を制御焦点理論の観点から明らかにすることを目的とした質問紙調査であった。3点目の研究は,感謝感情と負債感情が,「利益供与者への向社会的行動」に及ぼす影響の過程を制御焦点理論の観点から明らかにすることを目的とした質問紙調査であった。4点目の研究は,感謝感情と負債感情が「第三者への向社会的行動」に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした実験室実験であった。 本年度に遂行した4点の研究おいて,研究全体を進めるうえで,基礎となる重要な結果に加え,その発展となる感情から行動に至る過程に関わる研究成果を示すことができた。本年度に遂行した,感謝感情と負債感情が向社会的行動を促進することの検討および,制御焦点理論の観点から,感情と行動の関係を検討することは,個人内の変化に関する研究成果であるだけでなく,感情の機能に関わる成果でもある。 したがって,本年度の研究遂行は,研究全体の完遂へ向けて,おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,感謝感情と負債感情が対人関係の形成に関わる各要因に及ぼす影響を明らかにすることに重点を置いた実施計画を遂行した。本年度の計画遂行を受け,研究全体の目的を果たすためには,次年度以降の研究において,以下の3点の目的を順次,遂行する必要がある。 第一の目的は,感謝感情と負債感情が,日常生活において果たす機能を確認することである。本年度までは,感謝感情と負債感情の経験が向社会的行動に及ぼす影響やその過程を,実験や質問紙調査を用い,人為的に設定した場面において検討してきた。つまり,実生活において,感謝感情と負債感情が果たす社会的な機能については検討できていなかった。そこで,研究全体を,さらに意義のある知見とするために,実験や調査によって検討した本年度までの成果を日常生活において調査する必要がある。日誌法による15日間の調査を進めることにより,第一の目的の達成を試みる。 第二の目的は,制御焦点理論の観点から,感謝感情と負債感情が向社会的行動を促進する過程をさらに検討することである。本年度は,感謝感情と負債感情が向社会的行動に至る過程について,制御焦点理論の観点から質問紙調査による検討を進めた。しかし,第二の目的を果たすためには,質問紙による調査だけではなく,実験室実験を用いて,感情,動機づけ,および向社会的行動それぞれとの関係性を明らかにすべきである。実験参加者に感情喚起をさせ,実際の向社会的行動の測定および,その動機を尋ねることにより,第二の目的の達成を試みる。
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