研究課題/領域番号 |
16J01010
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小森 健太郎 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 重力波 / オプトメカニクス |
研究実績の概要 |
近年、レーザー光と機械振動子の相互作用を記述するオプトメカニクス分野の研究が非常に盛んである。振動子の機械振動モードをレーザー光の量子的な揺らぎと結合させること、レーザー光の輻射圧を利用して振動子の変位量を小さくし実効温度を低下させることなどが可能であるため、オプトメカニクス研究が巨視的な振動子の量子力学的な性質を明らかにすると期待されている。巨視的量子現象の探査には様々な質量スケールの振動子を用いる必要があるが、中でも私たちは、重力波検出器の分野で培われてきた技術を利用することができる懸架された鏡(質量はmg程度)に着目した。特別研究員としての研究では、懸架鏡の振り子モードを基底状態まで冷却することを目指している。 現段階では懸架鏡の振り子モードを10mK程度まで冷却することに成功しており、実効温度を制限している要因がレーザー光の周波数雑音であることが分かっている。昨年度までの段階では周波数雑音が実測されていなかったが、これを実測し確実に周波数雑音が感度を制限していることを突き止めた。さらに、冷却をオフにした際の振動子の温度上昇率が、実測された周波数雑音から見積もられる値と一致していることも確かめられた。 さらに、基底状態まで冷却する振動子は、単振り子よりもねじれ振り子の方が有利であることに着目し、熱雑音の評価を行った。基底状態まで冷却する際に障壁となる雑音の一つとして懸架に伴う熱雑音が挙げられるが、これは振動子の共振周波数が低いほど小さくなる。振動子の熱雑音を決めるパラメータであるQ値を実測し、ねじれモードの振り子並進モードに対する優位性が保証されたため、並進モードではなく共振周波数の低いねじれモードを基底状態まで冷却することを目標とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定では、1年目の研究で振動子の実効温度を低下させるためのフィードバック冷却の原理検証を行う予定であった。しかし、その原理検証は修士課程での研究において成功しており、博士課程開始時点で計画以上に進展していたのが最大の理由である。今年度の研究では振動子の温度を制限する要因の詳細な調査が可能となり、課題を確実に洗い出すことができた。また、振り子の並進モードより基底状態まで冷却しやすいねじれモードに着目し、冷却のための準備を進めることもできた。以上の理由から、本研究は当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
基底状態冷却までの前段階として、懸架鏡のねじれモードを用いて、広い周波数帯でレーザー光の量子輻射圧揺らぎを観測することを目指す。振り子を用いて広い周波数帯で量子輻射圧揺らぎを観測することは、オプトメカニクス研究だけではなく重力波検出器のR&Dという側面からも非常に大きな意義がある。これまで振り子を用いて広い周波数帯で観測した例はなく、量子輻射圧揺らぎ観測自体が世界初の成果となる。続いて、ねじれモードを基底状態まで冷却する実験に取り組む。すでに冷却手法は確立しているため、ねじれモードの変位感度を標準量子限界と呼ばれる測定限界まで上げ、その手法を適用することで基底状態冷却を目指す。
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