レーザー光と機械振動子の結合系を記述するオプトメカニクスの技術を用いることで、レーザー光の輻射圧を利用して振動子の変位量を小さくし実効温度を低下させることが可能となり、究極的には巨視的な振動子の量子力学的な性質を明らかにすることができると期待されている。量子力学における重力の役割を検証するためには様々な質量スケールの振動子を用いることが重要であるが、中でも私たちは、重力波検出器の精密測定技術を応用することができる懸架された鏡(質量はmg程度)に着目し、巨視的重ね合わせ状態の生成に向けて、懸架鏡の振動モードを基底状態まで冷却することを目指した。 mgスケールの振動子を冷却するため、棒状鏡をねじれ振り子として用いてその両端で光共振器を構築し、差動信号を取得して回転モードを測定するという新たな手法を考案した。この手法の主な利点は、回転モードは通常の振り子モードと比較して共振周波数が非常に低いため、冷却の障害となる熱雑音を小さく抑えることができる点である。基底状態冷却のためには、着目している振動モードが量子輻射圧揺らぎで駆動されることが必要条件となるため、まずは棒状鏡の回転モードで量子輻射圧揺らぎを観測することを目標とした実験を行った。 試験マスとなる振動子は、質量10 mg、長さ15 mmの棒状鏡を直径6umの炭素繊維で懸架したものである。結果として、量子輻射圧揺らぎと測定された雑音の信号雑音比0.14±0.03を達成した。これは、100 Hz付近の輻射圧揺らぎ測定における世界最高の結果であり、mg-g程度の質量の振動子を用いた測定においても世界最高の結果である。今後はさらなる雑音低減や、曲率つき鏡を両端に配置したダンベル型のねじれ振り子光共振器の開発などを行い、より高い信号雑音比での輻射圧揺らぎの観測、および基底状態までの冷却を目指す。
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