研究課題/領域番号 |
16J01058
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
吉中 奎貴 北海道大学, 大学院工学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 疲労破壊 / ギガサイクル疲労 / 疲労き裂 / チタン合金 / 放射光X線イメージング / 非破壊検査 / 真空環境 |
研究実績の概要 |
本研究はチタン合金Ti-6Al-4Vの超高サイクル疲労における内部き裂の発生・進展過程の解明を目的とする.目的達成のために1.SPring-8における放射光CTによる内部破壊過程の非破壊観察と,2.真空環境における微小き裂進展試験の二つを実施する. 1.に関して,本年度は実際にSPring-8における実験を実施し,放射光CTによるTi-6Al-4V内部組織の非破壊観察手法の確立を試みた.その結果,微小な結晶粒を極めて鮮明に観察することに成功した.さらに,本手法により内部き裂と組織を同時に観察し,き裂経路と組織の関係を検証した. また,本研究では小径の試験片を用いる必要がある.そこで本年度は新たに作成した直径0.7mm以下の試験片に対し疲労試験が実施可能であるかを検討した.その結果,400Hzの高周波においても安定して試験可能であることが確かめられた. 一方,2.に関しては,種々の真空圧力において試験を実施するために,バリアブルリークバルブを購入し,真空疲労試験機に設置した.本実験では1週間程度試験を継続するため,この期間にわたり真空圧力を一定にする必要がある.そこで,本バルブの圧力保持能力を検証する目的で,狙い値を15Pa程度の中真空として20日間にわたり真空圧力を測定した.その結果,期間中の真空圧力は12~15Paの範囲となり,真空圧力を精度良く保持できることが確かめられた. また,本実験では試験片表面に微小な欠陥をレーザー加工し,ここから発生・進展するき裂を観察する.そこで,本年度は有限要素法を用いた微小欠陥周りの応力解析により,欠陥からき裂が生じることを保証しつつ,欠陥寸法をできるだけ小さくできるような欠陥形状を決定し,実際にその加工を行った.その結果,ピコ秒レーザーを用いることで,おおむね狙い通りの寸法で欠陥を加工できることが確かめられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
真空中のき裂進展試験に関して,過去に行った同種の実験よりも,さらに微小なき裂を観察できるように,本年度は欠陥形状の決定および加工を行った.また,新たなバルブを設置するとともに,その性能評価を行い,所定の真空圧力を精度良く保持することを可能とした.以上の通り,現在までに本実験において最も時間を要する試験環境の整備が完了しており,今後速やかにき裂進展試験を実施することができる状況にある. また,内部破壊の非破壊観察に関しては,計画通りSPring-8での実験を行い,Ti-6Al-4V内部の結晶粒を非破壊で観察する方法が確立できた.また,新たに作成した小型試験片に対し高速で疲労試験が実施可能であることも確認できており,平成29年度に実施予定の内部組織と内部き裂発生・進展過程の同時観察に向けた準備は十分整っている. さらに,本年度は国内学会3件に講演者として参加したほか,筆頭著者として欧文誌に2件の論文が掲載されるなど,研究成果の発表は当初の計画以上に順調に行うことができた.
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今後の研究の推進方策 |
真空中のき裂進展試験に関しては,本年度中に試験を実施する準備が整っており,試験環境を低・中・高真空の3種類として順次実験を行う.実験結果の再現性を確認するために,各環境について2度ずつ実験を行う.本研究の結果は国内学会において発表するとともに,投稿論文としてまとめる. 内部破壊の非破壊観察に関しては,本年度行った実験により内部組織の観察を可能とした。一方で,近年SPring-8では結像法など,極めて高分解能の観察手法が利用可能となりつつある.そこで,SPring-8の利用申請が採択された場合,結像法を含めた高分解能観察手法をTi-6Al-4Vにおける内部組織の観察に適用し,これらの適用可能性を検討する.また,当初計画していた内部組織と内部き裂発生・進展過程の同時観察を試みる.実験を効率的に進めるために,予めSPring-8の施設担当者とミーティングを行う.SPring-8での実験が完了次第,解析ソフトImage Jを用いて得られた観察像の解析を行う.また,現在までにMATLABの利用環境が整っている.そこで,SPring-8の利用申請が採択されなかった場合には,これまでに得られているデータを対象としてMATLABを用いた画像解析を新たに実施する.本研究の成果の一部については超高サイクル疲労に関する国際会議VHCF7により発表する. さらに,これまでの実験により得られた疲労破面に対しSEMやFIB,EBSDを用いて結晶学的な解析を行い,内部き裂の発生・進展過程における内部組織の影響を精査する.最終的に,本研究課題のまとめとして得られた結果を統合し,一連の成果を複数の論文投稿によりまとめる.
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