研究課題/領域番号 |
16J01077
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 雄 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | フラストレート磁性体 / 核磁気共鳴 / 中性子散乱 / 単結晶合成 / パイロクロア格子 |
研究実績の概要 |
LiGa0.95In0.05Cr4O8における中性子散乱実験から、長距離磁気秩序が観測されず、また構造転移も起こっていないことが明らかになった。一方で、この中性子散乱実験を行った試料を核磁気共鳴(NMR)で再検証したところ、二次転移的な内部磁場の発達が確認された。この一見矛盾する実験結果を解釈するため、共同研究者が磁気散漫散乱を逆モンテカルロ法で解析したところ、四面体単位では2Up-2Downのスピン配置をもつが、スピンアイス状態の様に空間的には乱れた磁気構造をもつことが示唆された。得られた磁気構造からシミュレートされるNMRスペクトルは実験的に得られたNMRスペクトルをよく再現することができた。この磁気構造において、四面体上の2Up-2Downスピン配列は1種のディレクターとして解釈することができる。 LiGaCr4O8粉末試料に対し、NMRプローブに装着可能な対向アンビルセルを用いて、高圧下NMR測定を行い、磁性の変化を調べた。2.8 GPaの圧力下において、相転移の分布や核磁気緩和率などに大きな変化は見られなかったが、秩序状態のNMRスペクトル形状が常圧下のものから変化していることが分かった。このことから、秩序状態の磁気構造が圧力によって変化していることが示唆される。 これまでLiGaCr4O8は固相反応法による粉末試料しか合成されていないが、フラックス法を用いることで単結晶の合成に成功した。角度情報が平均化されない単結晶試料からは、より詳細な磁気構造の解明が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LiGa0.95In0.05Cr4O8について中性子散乱に関する研究は、本研究課題以前に行っていた核磁気共鳴の結果と組み合わせることで新奇な磁気構造が実現していることが明らかになった。この結果はLiGaCr4O8に対するInドープの化学的圧力の影響によるものと考えられ、圧力セルを用いた静水圧下のNMR測定を行ったところ、磁気構造の変化が示唆される結果が得られている。本系の基底状態を変化させる微視的なパラメータの決定には至っていないが、本研究は概ね順調に進捗していると言える。研究計画では二年目に予定していたLiGaCr4O8の単結晶試料合成は、現在既に小型の単結晶が得られており、今後は合成条件の精密化でより大型化を目指す。 また研究計画には予定していなかったが、フラストレート磁性体に関連して、カゴメ格子反強磁性体CdCu3(NO3)2(OH)6・H2OのNMR測定による研究も進展している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、LiGaCr4O8の高圧下NMR測定を継続して行う。現在2.8GPaの圧力下での測定を行ったので、今後はより高圧での測定を行ない、磁気構造の変化を調べる。LiGaCr4O8の単結晶試料合成に関しては、合成条件を精密化しより大型の単結晶育成を試みる。これに並行して、得られた単結晶試料を用いてNMR測定や高磁場磁化過程を調べることで、本物質の磁気構造の詳細を明らかにしたい。 前年度は上記のブリージングパイロクロア格子反強磁性体LiGaCr4O8に加え、カゴメ格子反強磁性体CdCu3(NO3)2(OH)6・H2OのCd-NMR測定を行なったが、秩序相における磁性サイトCuのNMR信号は観測できなかった。本年度は試料体積を増やし、極低温での測定を行うことで信号強度を増大させ、Cu-NMR測定を行うことで磁気構造の断定を試みる。
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