本研究の目的は、薬物代謝酵素CYP2D6の遺伝子多型が抗マラリア薬プリマキンに対する代謝活性に及ぼす影響を明らかにし、遺伝的なマラリア治療効果の個人差を解明することである。平成29年度は、(1)プリマキン代謝におけるCYP2D6遺伝子多型バリアントの酵素機能解析、(2)ケニア人集団におけるCYP2D6遺伝子多型解析、(3)CYP2D6遺伝子全長を挿入したミニジーン発現系によるイントロンSNPの評価を行った。 (1)アミノ酸置換を伴う50種類のCYP2D6バリアントタンパク質をヒト胎児腎臓由来293FT細胞に発現させ、ミクロソーム画分を調製した。ミクロソーム画分に対して、プリマキンを様々な濃度で反応させ、酵素反応速度論的パラメータを算出した。その結果、野生型に比較して固有クリアランスが有意に低下するバリアントが明らかになった。これらのバリアントを有するマラリア患者では、プリマキンの代謝活性化が遅延し、治療効果が低下する可能性が示唆された。 (2)マラリア流行地域であるケニア人195検体を解析対象として、CYP2D6遺伝子をPCR増幅し、サンガーシークエンス法により塩基配列を解析した。その結果、3つの新規遺伝子多型を同定した。さらに、これまでの報告を基に表現型の分類を行った結果、ケニア人集団の35%がCYP2D6低活性と予想された。本研究により、ケニア人集団に特徴的なCYP2D6低活性の原因となる遺伝子多型が明らかとなった。 (3)イントロンSNPによるタンパク質発現への影響を評価する陽性コントロールとして、スプライシング異常を生じるCYP2D6*41を挿入した発現ベクターを用いたところ、イムノブロット法においてCYP2D6タンパク質の発現量低下が認められた。しかしながら、酵素活性を安定して測定するためには、更なる発現条件の最適化が必要であると示された。
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