研究課題
細胞傷害機構に関与するプロテアーゼの探索を行い、Z-GPR-MCAを加水分解するセリンプロテアーゼが同種異系細胞に対する細胞傷害活性に関与していることを明らかにした。次に、生体より内因性酵素を精製し性状解析を行ったところ、分子量は約26,900、至適pHは9.5であること、並びにBoc-VPR-MCAが最も特異性の高い基質であることが判明した。以上より、本酵素は哺乳類のグランザイムAに相当する機能を有することが示された。次に、本酵素の活性値が細胞性免疫機能を反映していることを確かめるため、同種異系細胞移植実験を行い、細胞傷害活性およびBoc-VPR-MCA加水分解活性を測定した。その結果、細胞傷害活性ならびにBoc-VPR-MCA加水分解活性において、いずれも同種異系細胞移植により顕著な上昇が認められた。さらに、本酵素の同定を行うため、エドマン分解法によるN末端配列の解読ならびにその配列を参考にした遺伝子の単離を行った結果、本酵素はキンギョのmyofibril-bound serine proteinase (MBP)に類似したセリンプロテアーゼであることが判明した。また、本酵素は好中球およびマクロファージに特異的に発現している分泌型酵素であることが明らかとなった。以上の結果より、Boc-VPR-MCAを加水分解するトリプシン様セリンプロテアーゼが魚類の細胞傷害機構に関与することが示唆された。また、酵素活性の上昇と細胞傷害活性の上昇が一致していることから、本酵素の活性値測定により細胞性免疫機能を評価できる可能性が示された。また、MBPは筋肉中に存在する酵素であることが知られているが、本研究において貪食細胞に発現していることが判明したことから、本酵素はこれまで未報告の機能を有する新奇な酵素であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は細胞傷害機構に関与する内因性酵素の探索を試み、Boc-VPR- MCAを特異的基質とするトリプシン様セリンプロテアーゼであることを明らかにした。また、酵素活性の上昇と細胞傷害活性の上昇が一致することを見出した。さらに、分子の構造及び特性を明らかにするために、精製した酵素をコードする遺伝子を単離し顆粒球やマクロファージに発現する分泌型酵素であることを突き止めた。本酵素活性と細胞傷害活性の上昇が一致することから、本酵素の活性を測定することより細胞性免疫機能を評価することが可能であると考えられる。以上の研究成果は筆頭著者論文として1報、国際学会にて1回発表しており、期待以上の研究の進展が認められた。
平成28年度は魚類の細胞傷害関連酵素を見出すことに成功した。本酵素の活性を測定することにより細胞傷害活性を評価することができることから、細胞性免疫機能の簡便な測定法として活用することが期待される。本測定法は、酵素活性の測定実験は吸光度計、酵素の特異的基質、緩衝液など安価な実験機器類のみで実施可能であり、サンプルの調整も白血球の可溶化作業のみであり非常に簡便である。従って、設備が限られている水産試験場等の現場においても実施が可能と考えられる。よって、平成29年度は増養殖研究所にて実際に養殖産業上重要な魚種(ブリ、ヒラメ、マダイなど)を用いて細胞性免疫機能の簡便な測定法の確立を行う予定である。本手法の確立により、多大な労力と多数の魚を必要とする攻撃試験に代わるワクチン有効性判定法として、水産用ワクチンの開発や検定業務の効率化への貢献が期待できる。また、本酵素はこれまで未報告の新奇な機能を有する酵素であることが示唆された。よって、本酵素の機能を詳細に解明し、その細胞性免疫役割に対する役割を明らかにする予定である。これにより、魚類特有の免疫機構の存在が確認されれば、学術的に意義深い知見が得られることが期待される。
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Dev. Comp. Immunol.
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10.1016/j.dci.2016.12.002
巻: 60 ページ: 33-40
10.1016/j.dci.2016.02.011
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