研究課題
本研究は、Streptomyces属放線菌における新規ペプチドフェロモン分子の探索を目的としており、昨年度はペプチドフェロモン分子の生合成に関与する遺伝子の探索と候補遺伝子によりコードされる修飾酵素の機能解析に着手した。まず、枯草菌においてよく知られているペプチドフェロモンであるComXフェロモンの生合成経路のうち、ComQにより触媒される翻訳後修飾的なトリプトファン残基のイソプレニル化反応に着目した。このComQタンパクとの配列相同性及びモチーフ比較を行うことで、Streptomyces属放線菌においても同様の修飾酵素が広く分布していることを明らかとした。更に、こうした放線菌の中にはフェロモン分子の前駆体ペプチドであるComXのホモログ遺伝子を有している種も存在していた。更に我々はこうした候補遺伝子を有するStreptomyce属放線菌の1つであるStreptomyces bottropensis ATCC25435株に焦点を当てた。本菌のゲノムDNAを取得後、ComQ遺伝子のホモログであるSboQ遺伝子をPCRにてクローニングを行った。SboQタンパク質を大腸菌内でリコンビナントタンパク質として発現し、Ni-アフィニティー法による精製を行った。精製SboQタンパク質を各種のトリプトファン誘導体とin vitroにて反応させ、酵素反応産物を合成標品と比較することによって、SboQタンパクがComQと同様な触媒活性を有しており、枯草菌におけるComXフェロモンの生合成と同様な翻訳後修飾反応を触媒することを強く示唆する結果を得た。
2: おおむね順調に進展している
昨年度の研究においては、枯草菌(Bacillus属)で見出された翻訳後修飾酵素ComQに関してそのホモログ遺伝子がBacillus属微生物のみならず、遺伝的にも離れた微生物であるStreptomyces属放線菌にも幅広く存在することが相同性検索から示唆され、実際にそのうちの1つの発現及び機能解析を行うことでそれらの遺伝子がBacillus属微生物におけるComQ遺伝子と同様の働きを有することを確認した。翻訳後修飾としてのイソプレニル化反応について、真核生物ではシステイン残基を対象としたイソプレニル化が幅広く分布しており、タンパク質の活性の調節に寄与していることが知られているが、微生物にはこれに対応する反応が知られていなかった。今回の研究結果はトリプトファン残基のイソプレニル化反応がそれらに対応する、微生物に普遍的な翻訳後修飾機構ではないかという仮説を示すにあたって重要な知見を与えるものである。
これまでに行ったSboQタンパク質のin vitro活性評価は、各種のトリプトファン誘導体を基質としたものであり、真の基質と考えられているComXホモログ(SboX)については安定性及び発現量の問題からin vitro反応に供せていない。まずはSboQが真に翻訳後修飾に関与する酵素であることを示す為に、SboXペプチドの調製とSboXを基質とした酵素反応を行うことでSboQの更なる機能解析を進める。また、SboQ遺伝子及びSboX遺伝子がS.bottropensis株においてどういった役割を持つのか、あるいは真の生合成産物が何であるかについては、これまでの所わかっていない。Streptomyces属放線菌は比較的遺伝子操作や異種発現宿主の開発が進んでいる微生物であることから、今後はSboQ遺伝子の破壊によるS.bottropensis株の代謝プロファイルや形態の変化を調べると共に、SboQ及びSboX近傍のゲノム領域をクローニング及び異種発現宿主に導入することで、その生合成産物の同定を進める予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (3件)
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