研究課題/領域番号 |
16J01123
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小笠原 紗里 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 精子形成 / 細胞分化 / 脱リン酸化酵素 / ホスファターゼ / スプライスバリアント |
研究実績の概要 |
PPM1Dホスファターゼは精子形成への関与が示唆されている。また、PPM1D605が全身の組織に発現するのに対し、PPM1D430は精巣および白血球系に特異的に発現する。本研究の目的は、精子形成過程におけるPPM1Dスプライスバリアントの機能を解明することである。 まず、ヒト精巣由来胚性癌細胞株NT2に対してPPM1D特異的阻害剤であるSL-176を投与すると、NT2細胞の分化の指標のひとつである神経様の形態変化が見られた。定量的RT-PCR解析において、分化誘導剤レチノイン酸単独投与によりPPM1D605およびPPM1D430が経時的に増加し、SL-176単独投与ではほとんど変化しない一方、併用投与はレチノイン酸単独投与よりもmRNAが増加した。また、Oct-3/4のmRNAはレチノイン酸単独投与により経時的に減少し、SL-176を併用すると減少が早まる傾向にあり、分化を促進している可能性が示唆された。Western blotting解析において、PPM1DノックダウンによりOct-3/4がわずかに減少し、レチノイン酸を投与するとOct-3/4減少が早まった。さらに、PPM1D脱リン酸化標的タンパク質候補であるOct-3/4とERK-2由来のリン酸化ペプチドを化学合成し、脱リン酸化活性を測定したところ、ERK-2が基質となる可能性が示された。 並行して、CRISPR-Cas9によりPPM1DノックアウトNT2細胞株の作製を実施した。今年度は、PPM1D遺伝子領域に対するガイドRNAの最適化を行い、ヒト肺癌由来H1299細胞に対して効率的に組換え可能である配列を決定した。 さらに、テストステロン産生細胞であるライディヒ細胞におけるPPM1D機能を調べた。SL-176投与により脂肪滴サイズが増加し、脂質量が増加することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NT2細胞の分化誘導時のPPM1D機能についてSL-176投与およびノックダウンにより解析し、未分化状態の維持に関与していることが明らかになった。PPM1Dの脱リン酸化標的候補としてOct-3/4やERK-2由来のリン酸化ペプチドを合成し、脱リン酸化活性を評価できたが、細胞内でのリン酸化レベルの変化は解析できなかった。CRISPR-Cas9によるPPM1DノックアウトはNT2細胞では樹立できていないが、来年度には樹立できると期待できる。また、テストステロン産生細胞におけるPPM1Dの機能について脂肪滴に着目して解析を進めることができ、テストステロン産生能測定の準備は完了している。 以上のように、全体として順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
PPM1Dの細胞内での標的タンパク質の同定を実施する。以降の研究計画に大幅な変更はなく、Oct-3/4やERK-2を含むタンパク質のリン酸化レベルに対するPPM1Dの効果を明らかにする。また、引き続きPPM1Dノックアウト細胞株の樹立を目指し、スプライスバリアント選択的にノックイン可能な細胞株の作製を実施する。さらに、ライディヒ細胞においてPPM1D阻害によるテストステロン産生能の変化を測定し、PPM1D機能について解析する。
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