研究課題
本年度は主にスイス・ベルン大学に滞在して研究を行った。東南極セール・ロンダーネ山地に産する、塩素に富む流体が流入したことが明らかな試料に対して、塩水の起源を制約する目的で、ザクロ石の酸素同位体分析を行った。分析試料は、下部地殻相当の温度圧力条件下で塩水が流入した痕跡を持つザクロ石―黒雲母―珪線石片麻である。二次イオン質量分析装置 (SIMS)は、ベルン大学共同利用施設であるスイス・ローザンヌ大学のSwissSIMS設置のものを用いて、in situでザクロ石の酸素同位体分析を行った。分析試料は、基本的な化学分析により最適と判断されたザクロ石を薄片から切り出し、エポキシ樹脂にマウントした標準試料とともに、インジウムマウントを作成した。本試料は、ザクロ石のリムにのみ塩素に富む黒雲母が包有され、ザクロ石のコアリム境界で塩水が流入したと考えられている。そこで、ザクロ石コアからリムにかけて線分析を行った結果、コアからリムにかけてδ18O 値が徐々に下がる拡散プロファイルが得られた。ザクロ石リムのδ18O値は、ザクロ石のコアリム境界で花崗岩あるいはマフィック岩由来の流体が流入したことを示唆する。δ18O 値のみから流体の起源を断定するには至っていないが、この流体が塩水と同一流体であると考えると、地下深部由来の塩素が変成作用に関与していると考えられる。また、この拡散プロファイルと既存のザクロ石中の酸素の結晶内拡散定数を用いることで、ザクロ石リム形成後の高温継続時間を見積もることができた。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画では、ザクロ石の酸素同位体分析に加え、アパタイトの同位体分析も行う予定であった。アパタイトは新たな分析の立ち上げから行っていたが、試料準備とマシンのトラブルによる遅延が重なり、スイス滞在中に未知試料の分析を行うには至らなかった。しかし準備はおおむね整っているため、来年度には結果を出すことができると考えている。また、ザクロ石の分析は予定通りの精度で分析を行うことができたため、研究計画としてはおおむね順調に進展していると言える。
本年度の成果は既に学会発表を行い議論を深めているため、学術誌に投稿し、受理されることを目指す。また、アパタイトの分析を行うとともに、当初の研究計画通り東北大学にて実験を行い、天然試料からアプローチしていたこれまでの研究成果と併せて総合的に議論しながら研究を遂行していく。
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