研究課題/領域番号 |
16J01146
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
荒河 匠 北海道大学, 農学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 植物ミトコンドリア / 細胞質雄性不稔性 / 稔性回復遺伝子 / 分子進化 |
研究実績の概要 |
細胞質雄性不稔性(CMS)はミトコンドリア変異によって雄性不稔が引き起こされる。その作用は核ゲノムにある稔性回復遺伝子Rfによって抑制されるため、CMSの発現には核―ミトコンドリアの相互作用が関わる。テンサイCMSにおいてこの相互作用に翻訳後制御が関わることが明らかにされた。テンサイRf1はCMS固有タンパク質preSATP6に結合し、preSATP6ホモオリゴマー形成を阻害する。本研究では、この翻訳後制御について以下の3つの課題を設定し、調査を行った。 ①多様なRf1対立遺伝子の機能解析: テンサイRf1は複雑な複対立遺伝子である。本年度は、異なる作用力をもつ二つの優性Rf1について分子的に特徴づけた。形質転換培養細胞および未成熟を用いた解析によって、preSATP6と相互作用するコピーの花粉形成初期における発現量が稔性回復力と正の相関を示すこと、および、preSATP6ホモオリゴマーの蓄積量が稔性回復力と負の相関を示すことが明らかとなった。この成果の一部は学術雑誌に投稿中である。さらに、稔性回復の程度にしたがって、葯形態も異なる可能性が示唆された. ②Rf1による翻訳後制御の進化過程: Rf1の進化にはOMA1相同遺伝子の遺伝子重複と機能分化が関わることが分かった。興味深いことに、テンサイ未熟葯においてRf1とOMA1が相補的な発現パターンを示す。したがって、Rf1はOMA1の機能を部分的に代替している可能性が示唆された。 ③培養細胞におけるミトコンドリア機能調査: CMSミトコンドリアにおいて膜電位が低下することとpreSATP6ホモオリゴマー形成が関わるかどうかRf1導入培養細胞を用いて調査した。Rf1導入細胞はrf1導入細胞と比較して、膜電位は正常に近づく傾向が見られたが、有意な差は検出されなかった。今後はこれについて詳細な検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
3つの課題を予定通りに進めることができた。特に、Rf1の量的効果の分子機構に葯内部構造の形態が関わることは当初の計画にはない、新たな発見であった。次年度の計画も明確である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、①多様なRf1対立遺伝子の機能解析、および②Rf1による翻訳後制御の進化過程の二つについて研究を進めるとともに、成果を論文にまとめる予定である。
①多様なRf1対立遺伝子の機能解析: Rf1グループにおいて稔性回復の程度にしたがって、葯形態も異なる可能性が示唆されたため、今後は形態学的な調査を進める予定である。また、rf1グループについても葯および形質転換培養細胞を用いた解析を進める予定である。
②Rf1による翻訳後制御の進化過程: 系統解析によってテンサイOMA1およびRf1はそれぞれオルソログおよびパラログであることが示唆されているものの、実験的な証拠がない。予備的な調査によって、シロイヌナズナoma1変異体は高温条件下において根の初期生育が野生型よりも劣っていることがわかった。これらについて相補性検定を行うべく、OMA1およびRf1を導入したoma1変異体を作出し、表現型を解析する予定である。
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