研究課題/領域番号 |
16J01162
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
田中 亮太朗 九州大学, 数理学研究院, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | バナッハ空間 / 幾何学的性質 / 幾何学的定数 / 等距離写像 |
研究実績の概要 |
バナッハ空間論の研究においては、バナッハ空間内の凸図形の丸さや表面の滑らかさ等、幾何構造の研究が有用である。本研究課題では、バナッハ空間の種々の幾何学的定数を研究するとともに、バナッハ空間の幾何学的性質の導入や分類を行うことにより、バナッハ空間の構造理論の精密化を目指している。本年度は、次のような結果を得た。 (1)2つの有限次元C*環の単位球面間の全射等距離写像が、全空間の間の実線形等距離写像に拡張可能であることを示した。この結果は、作用素環におけるTingley問題研究の初期段階として認知され、スペイン等海外の研究者にも発展させられている。 (2)90度回転不変ノルム、すなわち、単位球が90度回転で不変であるようなノルムを持つ2次元バナッハ空間において、(modified) von Neumann-Jordan定数が計算できる十分条件と、その値を求める公式を与えた。 (3)James定数が最良値をとるような2次元バナッハ空間の特徴付けを与え、応用として、James定数が最良値でありながら、absolute norm或いは90度回転不変ノルムを備えた空間と等距離同型にならない2次元バナッハ空間の例を具体的に構成した。 (4)90度回転不変ノルムを備えた2次元バナッハ空間とその双対空間のペアに対しては、James定数が常に等しくなることを示した。 これらの結果は、論文としてJ. Math. Anal. Appl.やMath. Inequal. Appl.等に発表済み或いは発表予定であり、それぞれについて国内外の研究集会で口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、James定数が最良値をとるようなバナッハ空間の特徴付け等、バナッハ空間の幾何学的定数を通した幾何構造の研究に進展が見られた他、作用素環におけるTingley問題の研究でも一定の結果が得られた。特にTingley問題の研究については、ベルギーで行われた「20th Conference of the International Linear Algebra Society」での講演をきっかけにスペインの研究者との共同研究が開始され、今後のさらなる発展が期待できる。以上のことから、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの研究でJames定数について様々なことが明らかになってきたため、それらを足掛かりにバナッハ空間の構造理論の精密化を更に進めていきたい。また、Tingley問題等バナッハ空間の幾何学における未解決問題の解決に向けて、まずは作用素環等構造が詳しく研究されているバナッハ空間を対象に研究を進め、糸口を探りたい。
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