研究課題
本研究の目的は,低頻度疲労の発生メカニズムおよびその対処法を明らかにすることであり,本年度は,1) 筋小胞体Ca2+放出機能(以下,Ca2+放出機能と表記)の低下が低頻度疲労の原因となるのか,2) もしそうであるとすれば,そのメカニズムは何かについて検討した.実験にはラットを用い,ラットの腓腹筋に対して,張力が初期値の50%に低下するまで収縮を負荷した.収縮終了直後,0.5時間後,2時間後,6時間後,12時間後において腓腹筋を摘出し,スキンドファイバーを作製した.なお,収縮を負荷していない筋をコントロールとして使用した.スキンドファイバーを用いて,横行小管の興奮性(Na+-K+-ATPaseの機能),脱分極誘因性張力(ジヒドロピリジン受容体から開始されるCa2+放出機能),カフェイン感受性(筋小胞体Ca2+放出チャネルから開始されるCa2+放出機能)について検討し,以下の結果を得た.1) 横行小管の興奮性は,コントロールと比較し,収縮終了0.5時間後において低下した.2) 脱分極誘因性張力は,コントロールと比較し,収縮終了直後から2時間後において著しく低下し,6時間後においてわずかに低下した.3) カフェイン感受性は,コントロールと比較し,収縮終了0.5時間および2時間後において低下した.上記の結果は,回復早期段階において,Ca2+放出機能の低下が低頻度疲労の主な原因となることを示す.Ca2+放出機能の低下は,1) Na+-K+-ATPaseの機能低下,2) ジヒドロピリジンの機能低下,3) ジヒドロピリジン受容体から筋小胞体Ca2+放出チャネルへの情報伝達不全,4) 筋小胞体Ca2+放出チャネルの機能低下のいずれかによって生じる.本研究の結果は,2)と3)のいずれか一方あるいは両方が収縮後すぐに生じ,その後の安静期間において,1)および4)が生じることを示唆する.
2: おおむね順調に進展している
当初は,スキンドファイバーを用いた解析だけでなく,免疫沈降法を用いてタンパク修飾についても検討する予定であった.しかしながら,抗原抗体反応において非特異的なタンパク質と抗体が反応するなど種々の問題が生じ,解析結果を得られなかった.それでも,スキンドファイバーを用いた解析によって,当初の目的であった「どのタンパク質がCa2+放出機能の低下に寄与するか」を明らかにできた.これらのことから,おおむね順調であると判断した.
平成29年度は,当初の計画と同様,抗酸化剤の投与が低頻度疲労を軽減するかについて検討する.
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