研究課題/領域番号 |
16J01228
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
加藤 隼人 慶應義塾大学, 経済学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 輸送費 / 集積と分散 / 自然災害 / グローバル化 / 経済地理 / 独立企業間原則 / 企業立地 / 移転価格 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、主として移転価格と企業立地の理論的分析に取り組んだ。 各国の法人税率と企業立地を考えた場合、企業は税支払いを抑えるために税率の低い国に立地すると考えるのが自然である。しかし、各国に子会社をもつ多国籍企業の場合、税率の高い国に立地する子会社と低い国に立地する子会社との間で、企業内で取引する中間財などの価格(移転価格)を操作することによっても、税支払いを抑えることができる。本研究は、各国の税率が異なる場合に、移転価格を操作できる多国籍企業は、生産拠点をどの国に立地させるかを分析するものである。 税率だけが異なるような2国を想定する。拠点を1つしか持たない企業がいずれの国に立地するかを考えた場合、税支払いを抑えるために税率の低い国を選ぶ。しかし拠点を複数持つことができる多国籍企業の場合、必ずしも全ての拠点を税率の低い国に集中させるとは限らない。中間財生産拠点と最終財生産拠点を別々の国に立地させ、移転価格を操作することによっても税支払いを抑えることができるからである。例えば中間財生産拠点を高税率国に立地させ、最終財生産拠点を低税率国に立地させたとする。この多国籍企業は移転価格を生産費用に比べて非常に高く設定する。こうすることで、高税率国での利潤を圧縮し、低税率国での利潤を拡大し、多国籍企業全体での税支払いを抑えることができる。本研究では、2国の税率格差が非常に大きな場合には、多国籍企業は拠点を分散して立地させることを明らかにした。 現実の世界では、多国籍企業は自由に移転価格を設定することはできず、「関連企業間の取引価格(移転価格)は、独立企業間の取引価格と近いものでなければならない」という独立企業間原則に従っている。本研究は、このような独立企業間原則が厳密に実施された場合に、そうでない場合と比べて多国籍企業の立地がどのように変化するかについても分析をおこなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、市場規模の異なる3か国からなる経済地理モデルの分析とロビー活動に着目した租税競争の分析を学術雑誌に出版させるとともに、移転価格と企業立地の理論的分析と災害と企業立地の理論的分析という新しい課題に取り組むことができたため。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度までの研究において、多国籍企業の立地行動に関する理論的な枠組みを構築することができた。今後は、この基礎理論を基にして、労働市場に対する介入を含む広範な経済政策が集積に与える影響を分析していく。
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