研究実績の概要 |
発がんの超初期段階を模倣した系において、正常な細胞層に生じた変異細胞が管腔側へと排除される現象の分子メカニズムを代謝変化の観点から解明しようと試みた。その結果、周囲を正常細胞に囲まれた変異細胞においてミトコンドリア代謝の低下、解糖系代謝の亢進というWarburg effect様の代謝変化が起きることを明らかにした。また、これらの代謝変化を引き起こしている分子としてPDK4を同定し、これを抑制すると変異細胞の排除が起きなくなることから、PDK4を介した代謝変化が変異細胞の排除に重要であることが明らかとなった。さらに、当研究室で以前報告した現象であるEDACとの関与を検討した。EDACとは変異細胞に隣接した正常細胞が変異細胞を認識し、細胞骨格タンパク質であるFilaminやVimentinなどを集積させることで変異細胞を積極的に排除しようとする機構である。そこで周囲の正常細胞でFilaminをノックダウンすると変異細胞内で上述の代謝変化が起きないということから、代謝変化が周囲の正常細胞によって引き起こされるということを明らかにした。また、細胞競合モデルマウスを用いたin vivo解析を行った結果、マウスの生体内においてもPDK4を介した代謝変化が変異細胞の排除に重要であることが明らかになった。 これらの結果より、従来考えられていたがんの後期でがんの進行を促進するというWarburg effectとは全く異なり、発がんの超初期段階で引き起こされるWarburg effect様の代謝変化が前がん細胞の排除を促進しているという現象を世界で初めて明らかにした。また、この現象を筆頭著者の一人としてNature Cell Biologyに報告した(Kon, Ishibashi et al., Nature Cell Biology, 2017)。
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