研究課題/領域番号 |
16J01233
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
石橋 公二朗 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 細胞競合 / リン酸化SILACスクリーニング / AHNAK2 |
研究実績の概要 |
細胞競合現象へのさらなる理解のため、細胞競合の初期段階で機能する分子をリン酸化SILACスクリーニングにより網羅的に探索した。その結果、正常細胞と変異細胞の混合培養時特異的にリン酸化が大きく亢進するタンパク質として、AHNAK2を同定した。AHNAK2は中央に特徴的なリピートドメインをもつ分子量170 kDa(Dog)のタンパク質である。リン酸化SILACにより同定されたAHNKA2のリン酸化部位はリピートドメイン中の配列であり、この配列はヒト、マウスからゼブラフィッシュに至るまで脊椎動物の大半で保存されていることから、同定されたリン酸化部位は進化学的に重要であると考えられるが、AHNAK2とそのリン酸化部位の機能や意義に関しての報告は未だなされていない。これらの理由より、細胞競合におけるAHNAK2の機能に着目し、解析を行うことで細胞競合現象の包括的な理解を目指す。はじめに、リン酸化SILACスクリーニングにより同定されたリン酸化部位を抗原とする抗体を作製し、免疫染色法により混合培養時のAHNAK2の挙動に関する検討を行った。その結果、正常細胞の単独培養時、変異細胞の単独培養時と比較して、それらの細胞の混合培養時における正常細胞内でAHNAK2のリン酸化が大きく亢進していた。次に、細胞競合による変異細胞の排除へのAHNAK2の寄与を検討するために、AHNAK2をノックダウンした正常細胞株を樹立し、変異細胞の排除効率を検討した。その結果、AHNAK2ノックダウン細胞に囲まれた変異細胞の管腔側への逸脱が有意に抑制された。これらの結果より、発がんの超初期段階を模倣した系において、変異細胞と共培養した正常細胞内でAHNAK2がリン酸化されることが変異細胞の排除に重要であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請時の目標であった「代謝経路解析を用いて細胞競合の分子メカニズムを明らかにする。」という点に関しては、Nature Cell Biology誌に論文を報告するという成果を得ることができた。それに加え、昨年度は細胞競合の初期段階において異種の細胞が互いの違いをどのように認識しているのかという、細胞競合の本質に迫りうる研究を開始することができたため、当初の計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、リン酸化SILACスクリーニングにより同定された細胞競合の初期段階で機能する分子であるAHNAK2の機能解析を行う。具体的には、混合培養条件におけるAHNAK2のリン酸化の重要性を検討するために、CRISPR-Cas9システムにより内在性のAHNAK2にFlagタグを付加し、AHNAK2の発現量の変化を検討するとともに、リン酸化部位の変異体(wild type/A mutant/D mutant)を発現する細胞株を樹立し、表現系の解析を行う。また、免疫沈降法により、それぞれに結合するタンパク質の同定を行うことで、リン酸化時特異的にAHNAK2に結合するタンパク質を同定し、機能を解析する。AHNAK2のリン酸化の上流のメカニズムを明らかにするために、actin、Rhoファミリーやメカノセンサーとして知られるalpha-cateninやYAPなどの関与を検討し、AHNAK2の機械刺激に対する応答を観察するとともに、上流のキナーゼの探索を行う。AHNAK2がどのようにして変異細胞のapical extrusionに寄与しているのかを検討するために、AHNAK1が関与していることが知られているカルシウムシグナルに関する検討を行う。また、当研究室においてこれまで明らかにしてきた細胞競合関連因子(Filamin、EPLIN)とAHNAK2の関与を検討する。これらの実験を行うことで、正常細胞内で生じる変異細胞の認識→排除の分子メカニズムを包括的に明らかにしていく。
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