今年度は、本研究の具体的な目的の一つである、「1.動的臨界現象の性質を取り込んだ保存電荷ゆらぎの時間発展方程式の構築および、2.観測されるゆらぎに対する臨界点の影響の評価」を行うことに成功した。 1.QCD臨界点の近傍では、カイラル相転移の秩序変数であるカイラル凝縮と保存電荷が結合していることが知られている。そこでまず、カイラル凝縮と保存電荷の結合を考慮した上で、臨界点近傍のダイナミクスを時間に依存するギンツブルク・ランダウ方程式で記述した。この方程式はカイラル凝縮と保存電荷に関する非線形連立微分方程式であるが、長波長・長時間の極限を考えると、保存電荷に関する時間発展方程式は結合の項がない通常の確率論的拡散方程式になる。本研究では、議論の簡潔化のために上記の極限を仮定し、保存電荷の時間発展を、臨界点近傍における感受率の増大と拡散係数の減少を考慮した確率論的拡散方程式を用いて記述した。臨界点近傍での感受率や拡散係数の振る舞いは、QCD臨界点が属する動的普遍性クラスに基づいて定めた。 2.上記の方程式を用いて、保存電荷ゆらぎの、特にラピディティ幅依存性への臨界点の影響を議論した。この結果、臨界点近傍を通過する場合には、ゆらぎのラピディティ幅依存性に非単調な振る舞いが現れることがわかった。この非単調な振る舞いは、保存電荷ゆらぎのラピディティ幅依存性が感受率の時間発展の様相を反映する物理量であり、感受率が臨界点近傍で増大・減衰することに起因して現れることを解析的に示した。
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