研究課題/領域番号 |
16J01325
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
和田 智志 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 希土類錯体 / キラル光学特性 / 磁気光学特性 |
研究実績の概要 |
本研究では、非偏光の吸光度が外部磁場の方向に依存して変化する磁気キラル二色性(MChD)を強く発現するキラル希土類(Ln)クラスターの創成を目的としている。この目的を達成するためには磁気光学特性とキラル光学特性がどちらも大きな値を示すことが重要となる。そこで、当該年度は電子状態の解析を容易にするため、始めに単核のキラルユーロピウム(Eu)錯体を合成することで、以下の2つの点から磁気およびキラル光学特性の増大とその解析を目標とした。 1、磁気光学特性の向上に向けたEu錯体の合成 配位子による結晶場の影響が小さいとき、Eu錯体は大きな磁気円偏光二色性(MCD)を示すことが報告されている。そこで、結晶場の影響が比較的小さいカルボキシレート基を配位部位として有するアミノ酸を用いたキラル配位子の合成、およびその配位子を用いた新規キラルEu錯体合成を試みた。カルボキシレート基による配位は溶液中でEuとの配位力が弱く分解しやすいが、配位子内に複数の配位可能部位を有するとき、溶液中でも錯体形成が保持されることが確認された。また、合成したキラルEu錯体の発光スペクトル形状より、配位子の結晶場の影響が比較的小さいことが示唆された。 2、キラル光学特性の向上に向けたキラル配位子の合成 有機分子は会合体を形成したとき、分子間相互作用によってキラル光学特性である円偏光二色性(CD)が増大する。このような有機分子を配位子としたとき、配位子由来の大きなCD特性がEu錯体のCD特性に影響を与えることが考えられる。そこで、会合性を有し、カルボキシレート基を配位部位として持つキラル配位子の合成を試みた。目的生成物は黒色の層状結晶として得られた。これより、配位子が会合体を形成していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終的な目標はMChDを強く発現する物質を創成することであり、そのためにはMCDとCDが大きな値を示す分子の設計指針を確立することが重要となる。これらの測定はすべて溶液中での測定であるため、評価の際にLn錯体が溶液中で安定であることが必要となる。一方でMCD増大に向けたカルボキシレート基によるEu錯体の合成では、溶液安定性が低いことが問題となっていた。本年度はこの溶液安定性の問題に関して配位部位を複数与えることで解決し、MCDが大きいと予想されるEu錯体の合成に成功した。今後分光測定を行うことで、MCD強度がMChDに与える影響を評価できることが期待される。また、CD増大に向けた会合性キラル分子の合成にも成功している。この分子を配位子としたEu錯体を合成し、分光測定を行うことで、CD強度とMChD強度の関係性も議論が可能となる。
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今後の研究の推進方策 |
アミノ酸誘導体を配位子としたEu錯体のMCD測定を行い、磁気光学特性の評価を行う。同サンプルのMChD測定を行うことで、MCD強度とMChD強度の関係性を検討する。また、異なるアミノ酸を前駆体とした配位子を合成し、Euと錯形成させることで新規Eu錯体を合成し、MCDおよびMChDを評価する。 次に、会合性の有機分子を配位子としたEu錯体の合成を行う。吸収測定及びCD測定より、濃度に依存した溶液中での会合特性とLn錯体のCD強度の関係性を評価する。同サンプルのMChD測定を行うことで、CD強度とMChD強度の関係性を検討する。 また、Ln錯体のキラル光学特性増大のメカニズムは未だ明らかとなっていないため、これまでに大きなキラル光学特性が報告されているキラルEu錯体に関して詳細な分光測定を行う。発光測定、CD測定、MCD測定等の結果を解析することでEu錯体の基底・励起電子状態を推測し、理論式を用いてキラル光学特性増大メカニズムの解明を行う。
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