研究課題/領域番号 |
16J01336
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
長 裕紀子 熊本大学, 大学院自然科学研究科(理), 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | Non-coding RNA / セントロメア / 染色体分離 / RNP |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ヒト培養細胞においてセントロメア領域から産生されるノンコーディングRNA(セントロメアRNA)の染色体分離における機能を明らかにすることである。これまでに、「セントロメアRNAが細胞周期依存的に複数のタンパク質と複合体(間期/分裂期RNP複合体)を形成し、染色体分離制御をおこなう」という新たな機構の存在を見出していた。 間期RNP複合体の染色体分離における機能を明らかにするため、セントロメアRNPリモデリングモデルの検証をおこなった。間期RNP複合体構成因子DHX38と分裂期RNP複合体構成因子Aurora Bに着目した解析の結果、DHX38はAurora BとセントロメアRNAの複合体形成に関与しないことを明らかにした。さらに、DHX38はAurora Bのセントロメア局在を制御する一方で、クロマチンへの局在には関与しない可能性を見出した。これらは、間期RNP複合体の形成が分裂期RNP複合体形成には関与せず、分裂期RNP複合体の局在に関与する可能性を示唆している。 分裂期RNP複合体によるコヒーシン制御について明らかにするため、セントロメアRNAと分裂期複合体構成因子RBMXの関係を解析し、セントロメアRNAがRBMXをタンパク質レベルで制御していることを見出した。 また、コヒーシン制御因子Sororinもタンパク質レベルでの制御を受けることを明らかにした。これらのセントロメアRNAによる制御について、Sororinはプロテアソーム分解系で制御されるのに対し、RBMXは別の経路で制御されることも見出した。これらは、セントロメアRNAがコヒーシン制御因子を複数の経路で制御するという、新たな染色体分離機構の存在を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の研究計画と実施状況は以下の通りである。 1.セントロメアRNP複合体リモデリングモデルの精査。(1)間期複合体構成因子DHX38ノックダウン細胞において、分裂期のAurora BとセントロメアRNAのRNP複合体形成に影響がないことを明らかにした。これは、間期複合体が分裂期複合体形成に関与しない可能性を示唆する。 (2)DHX38ノックダウン細胞においても、Aurora Bはクロマチン上に局在できることを明らかにした。これより、DHX38はAurora Bのクロマチン局在には関与しない可能性を見出した。 2.コヒーシン制御モデルの精査。(1)セントロメアRNAノックダウンに伴い、コヒーシン制御因子RBMXおよびSororinのタンパク質量が減少することを見出した。mRNAには影響は見られず、セントロメアRNAがこれらの因子をタンパク質レベルで制御することを明らかにした。 (2)プロテアソーム阻害剤MG-132を用いた解析により、セントロメアRNAはSororinタンパク質をプロテアソーム系で制御していることを見出した。RBMXの制御系については他の経路であることが示され、現在解析中である。 (3)セントロメアRNAによるコヒーシンの局在制御の解析。現在、Mitotic chromosome spreadと免疫染色を組み合わせた解析を進行中である。 3.DHX38のセントロメアRNA局在への関与解析。DHX38ノックダウン細胞においても、セントロメアRNAはクロマチン上に存在することがわかった。ただし、セントロメア局在が異常になり、分散している可能性があるため、引き続き検証する。 28年度は研究計画に沿って全項目において進展しており、おおむね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1.間期RNP複合体がセントロメアRNAの局在を制御し、これが分裂期RNP複合体のセントロメア局在を可能にするという、新たなモデルを提唱する。このモデルの検証のために、DHX38ノックダウン条件下のセントロメアRNAやAurora Bの局在について、FISHやIFにより解析する。 2.(1)セントロメアRNAによるコヒーシン関連因子の局在制御の解析については、RBMXおよびSororinの発現量が減少することが分かったため、変更する。代わりに、セントロメアコヒーシンの保護に重要なShugoshinのIFやウエスタンブロット解析、ChIP解析等により、セントロメアRNAによるセントロメアコヒーシンの制御について解析する。 (2)セントロメアRNAによるRBMXの制御系については、プロテアソーム系以外の経路であることが分かったため、今後はセントロメアRNAがRBMXの安定性を制御する可能性について、RNA結合ドメイン欠失プラスミド等を用いて解析する。
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