研究課題/領域番号 |
16J01410
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
岩本 紘明 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 有機ホウ素化合物 / 銅(I)触媒 / 計算化学 / 不斉ホスフィン配位子 |
研究実績の概要 |
有機ホウ素化合物は1960年代にノーベル化学賞を受賞したH. C. Brownらによって初めてその合成的価値を見出され、これまでに多くの有機ホウ素化合物の合成法及び有機ホウ素化合物を用いた変換反応が報告されている。私は当該年度において、新たな種類のホウ素化反応を開発することに成功した。一つ目として、有機合成化学における重要な環状骨格構築法であるラジカル環化反応を応用したラジカル環化ホウ素化反応である。これは、私が所属する研究グループで開発された銅(I)/ジボロン触媒系が有機ハロゲン化合物と反応する際にラジカル中間体を経由することを利用し、適切な配位子を銅(I)触媒と共に用いることでアルケン部位を有する有機ハロゲン化合物を複雑な環構造を有する有機ホウ素化合物へと変換するというものである。また、本反応条件では、潜在的に銅(I)/ジボロン触媒系と高い反応性を有するアリルエーテル骨格ではなく、アルキルハライド部位と選択的に反応していることから、配位子によって触媒の化学選択性を制御することにも成功している。二つ目としては、脂肪族末端アルケンに対するエナンチオ選択的なMarkovnikovヒドロホウ素化反応である。脂肪族末端アルケンに対するヒドロホウ素化反応は一般に、anti-Markovnikov型の位置選択性で進行し、第一級アルキルホウ素化合物を与える。本研究では、計算化学を用いた理論的な配位子設計法を用いることで銅(I)触媒による脂肪族末端アルケンに対するエナンチオ選択的Markovnikovヒドロホウ素化において、非常に高いエナンチオ選択性を示す不斉ホスフィン配位子を開発することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
光学活性有機ホウ素化合物は有機合成化学において非常に重要な合成中間体であり、様々な有用な有機化合物合成に利用されてきた。私が所属する研究グループでは銅(I)触媒を用いた不斉ホウ素化反応を数多く報告している。このような不斉反応開発は、その過程で反応に適した不斉配位子の網羅的な探索が必要であることが多く、煩雑で長期間の開発時間を要している。そこで、私も研究計画にあるように不斉ホウ素化反応の開発を行ってきたが、計算化学を用いることでより効率的な不斉配位子の設計ができるのではないかと考えた。実際にDFT計算を用いた反応の選択性が決まる遷移状態の構造を詳しく分析することで、理想的な不斉配位子を開発することができる一連のプロセスを開発することができた。このような非常に緻密な不斉配位子のデザインが行われた例は未だに少なく、世界に先駆けた成果になると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度に開発した計算化学を駆使した不斉ホスフィン配位子設計法をより一般化することを目的として、様々な不斉反応に適用させて行く予定である。また、今まではリン原子上の置換基のみに着目して設計を行ってきたが、配位子の基本構造となる部分も最適化することで強力な不斉認識能力を発現することが新たに計算化学により明らかとなってきたので、配位子の構造全てを考慮した新たな配位子設計システムの構築を検討して行く予定である。
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