研究課題/領域番号 |
16J01412
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
安田 優人 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 銅触媒 / 不斉合成 / アリル位アルキル化 / 有機ホウ素化合物 |
研究実績の概要 |
アリルホウ酸エステルを求核剤に用いた高選択的銅触媒不斉アリル-アリルカップリング反応を開発した。第2級アルキルボランの不斉アリル系カップリングの開発にあたり、高反応性のアリルホウ素化合物を用いて予備的検討を行った。その結果、銅(I)/キラルN-ヘテロサイクリックカルベン(NHC)錯体触媒存在下、中程度のエナンチオ選択性で反応が進行することを確認していた。そこで、さらなるエナンチオ選択性の向上を目指し、キラルNHC配位子の設計合成を行った。その結果、独自に開発したフェノール性水酸基を有するキラルNHC-銅(I)錯体触媒を用いることで、アリルホウ酸エステルのアリル位置換反応が高いエナンチオ選択性で進行することを見出した。 アリルホウ酸エステルと第1級リン酸アリルのカップリング反応が、触媒量のCuCl (10 mol%)、フェノール性水酸基置換型キラルN-ヘテロ環カルベン前駆体 (10 mol%)、1.2当量のMeOK存在下、THF溶媒中-40°Cの条件において、優れた位置(分岐)選択性およびエナンチオ選択性で進行した。本触媒反応により、アリル/ホモアリル位に不斉sp3炭素中心を構築することができる。 本反応は高い官能基許容性を有しており、エステルやブロマイド、アミンなどを含む様々なリン酸アリル基質との反応が高選択的に進行する。また塩基性条件下において比較的不安定なトシル保護されたものも用いることができる。本手法により、多様なキラル1,5-ジエン誘導体が合成可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請当初、予備的知見として検討していたものが、その内容が有機合成化学において重要であることが文献調査によりわかった。そして、その成果を学術論文という形にしてAngewante Chemie Interanational Edition誌に公表することができた。それに伴って、学会にてポスター発表を実施することができ、優秀ポスター賞にも選出された。これらより、本研究が第3者により高く評価されたと言える。 その過程で有機ホウ素化合物を用いた銅触媒アリル位置換反応における立体化学の知見が得られた。この知見をもとに今後、より挑戦的な課題への取り組みが期待出来る。具体的には、連続不斉炭素中心を含む複雑系骨格化合物の一挙合成や、立体的要因により合成が難しいとされる第4級不斉炭素中心の構築への展開を想定している。これら反応の開発に成功した暁には、当初予定していた通り、よりかさ高い第2級アルキルホウ素反応剤を用いた、エナンチオ選択的アリル位置換反応へと展開していくことが可能となる。 また、見出した反応により合成可能なカップリング体を、さらに変換することで既知化合物に誘導することができる。これにより形式全合成を行うことで、開発した反応の価値を高めることができる。 以上のように、今後さらなる展開が期待される新たな銅触媒不斉アリル位置換反応の開発に成功した。これは有機合成化学に貢献できたと言えるので、「おおむね順調に進展している」と言える。
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今後の研究の推進方策 |
現在、多置換アリルボロン酸エステルを用いることで、より複雑骨格を有するキラル化合物の高効率な合成を目指している。α位またはγ位に置換基を有するアリルホウ素化合物を用いた場合、金属交換により生じるアリル銅(I)種の反応位置制御が課題となる。これを、キラル配位子を設計・合成することで解決し、連続不斉炭素中心をジアステレオ選択的に合成する手法の開発を目指す。α位が置換されたアリルホウ素化合物の利用に成功した際には、第2級アルキルホウ素化合物の利用も検討していく予定である。 独自に開発したキラルNHC配位子を用いることで、求電子剤の脱離基のγ位で選択的に結合を形成することがわかっている。そこで、キラルNHC配位子上の置換基を変えることで、電子密度を制御しアリル銅(I)求核種の安定化を図り、高いジアステレオ選択性を実現する予定である。 並行して、開発した高選択的銅触媒不斉アリル-アリルカップリング反応の基質一般性やその応用についても検討していく。具体的には、キラル基質を用いた連続不斉炭素中心の構築を狙う。また、カップリング体をアルドール縮合を含む2段階を経ることでα、β不飽和ケトンへと変換し、文献既知化合物へと誘導する。これはAristeromycinやLignansなどへと誘導することができる化合物である。 さらに、本研究課題の鍵となる第2級アルキルボロン酸エステルと銅触媒の金属交換反応についても検討を進める。Lewis酸の添加や、高反応性のボレート形成に有効な塩基の検討を予定している。これを解決することで銅触媒不斉アリル化反応の地位を確立する。
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