研究課題/領域番号 |
16J01512
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大里 健 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 観測的宇宙論 / 弱重力レンズ効果 / 熱的Sunyaev-Zel'dovich効果 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
本研究では次の二つの観測に着目する。一つは弱い重力レンズ効果である。重力レンズ効果とは、遠方にある銀河からの光が我々と銀河の間にある物質の重力によって、あたかもレンズを通したように軌道が湾曲する現象を指す。隔てている物質の量が多いほど、像の歪みは大きくなる。個々の銀河の像の歪みは極めて微小なものであるが、何個もの銀河の像を統計的に解析することで、物質の空間分布を再構築することが可能である。光学的な観測では自ら光を放つ天体(星や銀河)しか観測することは出来ないが、重力ンズ効果は重力の主成分たる見えないダークマターを捉えることが可能である。これは他の観測にはない重力レンズ効果の極めて重要な特徴である。もう一つはthermal Sunyaev-Zel'dovich (tSZ) 効果である。これはCMB の光子が銀河団などに存在するガスを通過するうちに、高温の電子に逆Compton散乱によってCMB の温度の異方性が生じる効果である。tSZ 効果は宇宙のガス分布を反映しており、また宇宙論パラメータ、特に密度ゆらぎの振幅に非常に敏感であることが知られている。さらに、これら二つの効果の相関解析を取ることによって、さらに独立な情報を得られることが先行研究によって示唆されてきた。そこで本研究課題ではこれら二つの観測量からシミュレーション・解析的な理論モデルを併用して、宇宙論的な意義を引き出す手法を開発し、その手法を実際のデータに応用する研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、宇宙の構造を再現するN体シミュレーションという手法を用いて得られた宇宙の密度分布から、解析的なモデルに基づいてtSZ効果をシミュレートするために必要な宇宙の圧力分布を再現する手法を開発した。このモデルは超新星や活動銀河核由来のフィードバック効果を取り入れた上、乱流といった非熱的な圧力による寄与も考慮されている。非熱的な圧力は従来のX線による銀河団観測では測定が非常に困難な物理量であるが、tSZ効果と重力レンズ効果の統計量を利用することにより、銀河団中にどれだけ非熱的な圧力が存在するか制限することが可能になる。実際にこれらのモデルをPlanck衛星によるtSZ効果の観測とCanada-France-Hawaii Telescopeによる弱重力レンズ効果の相関解析の結果に適用し、非熱的な圧力が実際にどれだけ存在するか明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本年度に開発した手法を用いて、より高精細のデータに適用する。具体的にはすばる望遠鏡のHyper Suprime-Camによる重力レンズ効果の観測と、Atacama Cosmology TelescopeのtSZ効果の観測という、世界で最も低雑音でカバーする領域の広いデータを使用する。これらのデータを用いれば、ダークエネルギーの性質といった宇宙論の問題に対して、より一層深い定量的な議論が可能になる。
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