研究実績の概要 |
共鳴状態にある分子の動力学を追うために、1. 基底関数の作成と2.束縛状態から連続状態への遷移モーメントの複素基底関数法による評価方法の開発を行った。 1. Hylleraas型汎関数を用いて変分的に最適化した複素STO(cSTO)が精度よく非同次型シュレーディンガー方程式の解を原点から15bohr程度まで再現することが分かった。最適化したcSTOを詳細に調べたところ、波動関数を表現するうえで重要なのは、分子領域における複雑な実関数の振る舞いと漸近形における球面波の振る舞いを基底関数展開で精度よく再現することであることを見出した。これらの研究成果は投稿論文(R.Matsuzaki and S.Yabushita, Journal of Computational Chemistry 38, 910 (2017))として発表した。次に、効率的な複素GTO(cGTO)を作成するために、外向クーロン波をよく表現するように、cGTOの複素軌道指数をフィッティングにより計算した。典型的な問題として、水素原子の光イオン化の問題に対して作成したcGTOを用いて波動関数を計算したところ、原子核から15bohr程度まで正確な波動関数をよく再現することがわかった。 2. 2ポテンシャル公式を使って、束縛状態から連続状態への遷移モーメントを、0次のハミルトニアンに対する項と散乱項に分割した。それぞれの項には0次のハミルトニアンに対する連続状態の波動関数が現れる。0次のハミルトニアンを持ち、分子領域に局所化した非同次項を持つ非同次型シュレーディンガー方程式を考え、その解の虚部で0次の連続状態を表現した。非同次型シュレーディンガー方程式はcGTOにより近似的に解いた。水素分子の光イオン化微分断面積を計算したところ、精度良く計算できることがわかった。以上の結果は論文投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究から基底関数と連続状態への遷移モーメントの従来法より安定した計算手法が開発できたので、共鳴状態にある分子運動の問題に再度取り組む。 最初は、当初の計画にあったように、McCurdyらが提案した二次元モデル[1]を利用して計算精度や計算の安定性を調べる。特に、今回の研究で開発した変分法やフィッティング法が分子運動を伴う問題に対してどの程度の精度を維持するかを調べる。また、新しい遷移モーメントの計算方法が共鳴状態にある分子運動の計算に十分な精度を保つかを検証する。調べる方法は、二次元モデルをグリッド法を使って解いた精度の高い解と複素基底関数法を解いて計算した精度は低いが分子に対する一般性の高い方法を波動関数や断面積の立場から比較する。 モデル計算による方法論の開発と検証が十分にできたら、複素基底関数に基づいたに電子励起状態が計算可能な量子化学計算プログラムを作成する。水素分子の二電子励起状態の計算を行う。特に、Odagiriら[2]のCoEELS実験によって測定された帰属されていないピークの起源を明らかにすることで、二電子励起状態にある分子の運動の特徴を明らかにしたい。
[1]K.Houfek, T.N.Rescigno and C.W.McCurdy, Phys.Rev.A 73, 032721 (2006) [2]T.Odagiri, N.Umemura, et al., J.Phys.B:At.Mol.Opt 29, 1829 (1996)
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