本年度は、日本の植物学者・早田文藏(1874-1934)による独自の生物学思想の提唱を、日本における進化論の受容と仏教思想の関係や、20世紀初頭における日本人科学者たちの競争的科学観および「東洋」と「西洋」に対する意識などの観点から考察した。 まず7月までは、前年度に引き続き米国のボルチモアに滞在して、ジョンズ・ホプキンス大学の科学技術史学科でvisiting studentとして研究を進めた。4月には学内の定例研究発表会であるTuesday Brown Bag Lunch Talkで口頭発表をおこない、1930年代に早田が自分の学説を「東洋的な」理論として提唱した背景について考察した。この発表では、出席した多くの研究者から有益な意見をいただいた。 8月以降は、日本に帰国して研究を続けた。まず8月には、博多で開催された日本科学史学会生物学史分科会の「夏の学校」に参加して口頭発表をおこない、早田の学説は特定の種類の仏教思想と深い関わりがあることを論じた。また、9月にはアウトリーチ活動として、滋賀県東近江市の「西堀榮三郎記念 探検の殿堂」で開催されたサイエンスカフェ「何が早田を突き動かしたのか?――独創的な「動的分類系」とその着想の源」で講師を務め、早田の業績やアイデアについて解説した。その後は、先行研究のサーベイや議論の組み立てなどをおこない、論文として発表できる内容をほぼ固めることができた。
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