研究課題/領域番号 |
16J01676
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
納谷 亮平 筑波大学, 人文社会科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 語彙範疇 / 機能範疇 / 半語彙範疇 / 名詞化 / 接頭辞 / 派生と複合の境界問題 / 右側主要部の規則 |
研究実績の概要 |
形態素は語彙範疇と機能範疇に大きく二分されるが、その区別は必ずしも明確なものではない。ある種の形態素は、語彙範疇と機能範疇の中間的な振る舞いを見せる。そのような要素は半語彙範疇と呼ばれているが、文法体系上の位置付けをめぐって議論がある。本研究は、Emonds (2000)が仮定するBifurcated Lexical Modelに基づき、半語彙範疇の性質とその文法体系上の位置付けを明らかにすることを目的としている。 本年度は、主に次の4つの成果が得られ、国内外の学会や機関誌において発表した。[1]-mentが付加することで形成された動詞由来名詞(例:assignment)の持つ二面性について、-mentが「語彙範疇化」して基体動詞に付加するか否かという点から説明できることを示した。[2]接頭辞付加は、従来、派生形態論に位置付けられてきたが、それを屈折と同様の操作であるとするEmonds (2005)の分析の拡張を試みた。まず、英語接頭辞の多くは語彙範疇であるとする先行研究を踏まえ、Emonds (2005)の分析の適用範囲の精緻化を図った。次に、先行研究では明示的には扱われていない前置詞と同形の接頭辞(例:over-)に関して、その多くが語彙範疇としての性質を示す一方、機能範疇的な性質を示すものがあることを指摘し、その文法上の役割を明らかにした。[3]英語の複合語において「透明な主要部」と呼ばれるものに関して、この種の主要部になり得るのは半語彙範疇であると提案した。[4]日本語の複合語に関して、右側にオノマトペを持つ例(例:「壁ドン」)を扱った。このような複合語は、統語範疇が右側要素によって決定されていないという点で例外事例に見えるが、これらは実際には発音されない半語彙的要素を主要部として持つ複合語であり、例外とはならないと主張し、その妥当性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた英語における研究に一部遅れがあるものの、日本語における研究が当初の計画よりも進んでいるため、全体としてはおおむね順調に推進できていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、28年度中に得られた成果を基に観察・分析の幅を広げ、さらに発展させる。具体的には、主に次の3点に取り組む。 [1]英語の接頭辞に関して得られた分析の方向性を追究する。個々の接頭辞が持つ性質の検討を重ねることで分析の妥当性を検証し、接頭辞付加という操作の形態論上の位置付けを明らかにしていく。28年度に示された方向性に従えば、接頭辞付加は複合か屈折と同様の操作のいずれかであることになり、派生形態論においては何ら役割を果たさないことになる。結果として、派生は範疇変更機能を持つ接尾辞付加のみによって構成されていると言え、形態的操作が持つ本質的な特徴を明らかにすることにつながると考えられる。このことはさらに、従来は派生として考えられてきた範疇を変更しない接尾辞付加が、実際には複合と同様の操作であると考えられる可能性を示している。この観点から、接尾辞に関しても考察を進める。 [2]複合語における透明な主要部と半語彙範疇要素との関連についてさらに考察する。28年度に示した分析が正しければ、ある要素が透明な主要部になり得るか否かという点が、その要素が半語彙的要素であるか否かを診断するテストのひとつとして考えられる可能性がある。この可能性について検証するため、先行研究で指摘されている半語彙的要素を踏まえ、実際のデータの観察・調査を行う。また、日本語の複合語を考察対象に含め、対照研究的な観点から透明な主要部及び複合語における主要部性に関する新たな知見を得る。 [3]右側にオノマトペを含んだ複合語の分析において仮定した「発音されない半語彙的要素」が、他の語形成にも関わっていることを示し、それが特殊なものではないことを示す。 以上を通じて、半語彙範疇の性質を、それが日英語の語形成において果たし得る役割という観点から明らかにし、本研究課題において得られた成果を論文としてまとめる。
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