研究課題/領域番号 |
16J01704
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
滝沢 侑子 北海道大学, 環境科学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 分子内安定同位体 / 有機化合物 / 脂肪酸 / アミノ酸 / 植物 / 異化 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,環境試料中の有機化合物中が持つ「生産(同化)」と「分解(異化)」の情報を区別して定量化する手法を,世界で初めて確立することである.具体的には,脂肪酸のカルボキシル炭素を対象とした分子内安定同位体比測定法の開発と,その応用研究をおこなう.平成28年度は大きく分けて2つの課題に取り組み,以下の成果を得た.
1.分析系の構築と測定条件の検討: ガスクロマトグラフ-同位体比質量分析計(GC-IRMS)の改造と,脂肪酸の標準試薬を用いての分析条件の検討を実施した.脂肪酸のカルボキシル基を脱炭酸により二酸化炭素として放出させるために,GCとIRMSの間に,セラミック製の熱分解炉を設置した.標準試料を用いて条件の検討を行った結果,脂肪酸のカルボキシル基由来と考えられる二酸化炭素は,低極性のGCカラムで検出できることがわかった. 2.方法論確立のための予備実験: 異化作用を優れた精度で定量するためには,有機化合物中に,同化と異化の情報がそれぞれどの程度含まれるかを理解することが重要である.そのために植物試料(葉と花)に含まれるアミノ酸と脂質の安定同位体比(窒素,炭素, 水素)を測定したところ,以下の新しい知見を得た.(1) 貯蔵性タンパク質のエネルギー源としての利用:植物は光合成活性が低い,もしくは無いときにおいて,成育(有機物合成)のために貯蓄性のタンパク質(アミノ酸)の異化で生じるエネルギーを利用すること,そしてそのシグナルをアミノ酸の窒素同位体比に記録することがわかった(論文1). (2) 脂質合成における光合成産物と貯蔵物質の相補的利用:植物は光合成能の高い成長期(春~秋)においても,葉での脂質合成時に主要な炭素・水素源として貯蔵物質を頻繁に利用すること,そしてその利用率は,分子種(脂肪酸,炭化水素,ステロール)や元素(炭素, 水素),時期によって多様であることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は「脂肪酸のカルボキシル炭素を対象とした分子内安定同位体比測定法の開発(本実験)」と「その実用・応用性の根拠となる仮説の実証(予備実験)」で構成されている. 本実験では【研究実績の概要-1】で述べたように,測定装置の改造や,分析の条件の検討等を実施し,当初の予定通り,順調に進展している. 一方で,予備実験では,当初想定していたものとは全く異なる結果が得られた(研究実績の概要-2参照).しかしこれらの結果は,生体内における有機化合物の安定同位体比変動の「理論的解釈」と「実測値」の間にある矛盾が,「光合成産物と貯蔵物質の相補的利用」という新たな考え方を導入することで,うまく説明できることを示唆した.この成果は,当該コミュニティから高く評価を受け,有機化合物の安定同位体比を用いた研究への貢献度が非常に大きいと考えられる. 以上を総合的に考え,研究全体としては【当初の計画以上に大きく進展している】と評価する.
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今後の研究の推進方策 |
分子内安定同位体比測定法における最適条件(カラムの種類, 温度, キャリアガスの速度)を,引き続き検討していくことで 回収率の向上や,測定の安定化,精度の向上を目指す. また,測定法の完成後は,「測定された同位体比(測定値)」と「異化により生じた実際の同位体比の変化(真値)」との間でのキャリブレーション法を作製する.そのための試料の選定と実験は,平成28年度中に始めており,平成29年度はその完成を目指す.
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