「有機化合物の生産(同化)/分解(異化)のバランス」を区別して定量的に評価するための新規手法確立を目的に研究をおこない,本年度は以下の成果を得た。 1.分子内安定炭素(C)同位体比測定法の開発:熱分解炉の最適温度の検証 分解を定量的に評価するための新規手法である「脂肪酸のカルボキシル基のCを対象とした分子内安定同位体比測定法」を開発するために,昨年度に引き続きGC-IRMSの改造と,脂肪酸標準試薬を用いての分析条件の検討を実施した。検討の結果,カルボキシル基由来の二酸化炭素のC同位体比を,最も精度良く測定できる熱分解炉の温度は「1100℃」であることがわかった。 2.脂質分解における同位体分別プロセスと反応部位の証明 脂質分解における同位体分別が,どの元素のどの部位に記録されるか?を証明するために,成長時に体内に貯蔵する脂質を分解・利用することで知られる「植物種子」の発芽実験をおこない,パルミチン酸の分子レベル水素・C同位体比を測定した。その結果,発芽前に対して発芽後の試料に13Cの濃縮(+2.9±1.7‰)が検出され,脂質分解過程にCを反応部位とする同位体分別が存在することが示唆された。分別を与えうるプロセスの候補としては,脂質分解(利用)の初期過程である「酵素による貯蔵性脂質の加水分解反応」が考えられ,もしこの仮説が正しければ,その反応が起こる部位は「貯蔵性脂質中の脂肪酸成分のカルボキシル基のC」となる。これを検証するために,上記1で改良を施したGC-IRMSを用いてカルボキシル基のC同位体比を測定した。その結果,発芽後の試料に含まれる脂肪酸成分中のカルボキシル基のCに,顕著に大きい13C濃縮(+63‰の上昇)が検出された。以上のことから,貯蔵性脂質の「酵素による加水分解」が,カルボキシル基のCに大きな同位体分別を与えるKeyプロセスであることが証明された。
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