研究課題
放射線障害、糖尿病、血管病変などの慢性難治性の病的組織の多くは、慢性的な虚血や炎症により、組織内の幹細胞が消耗され、枯渇した状態にある。こうした病態の根本である「組織内の幹細胞欠乏」を標的とした、合理的かつ根治的な再生細胞治療を創成することが本研究の目的である。本年度は、まず幹細胞枯渇状態を模した動物モデルとして、放射線の背部選択的照射による放射線障害マウス、薬剤投与による糖尿病誘発マウス、皮弁挙上部位に創を作ることによる慢性虚血組織マウスを作成した。次に、その具体的な治療法として、初歩的な脂肪移植法と濃縮した脂肪移植法の比較検討を行った。脂肪の濃縮は機械的処理によって行い(酵素処理を用いないため臨床応用しやすい)、通常の脂肪と比較して高い幹細胞や内皮細胞の含有率を認め、残存細胞の生存も良好で、vivoでは放射線潰瘍に対して高い再生治療効果を確認できた。さらに、再生医療用のRCP(リコンビナントペプチド)の利用について検討した。バイオマテリアルとしてのコラーゲンスカフォールドは広く使用されているが、ヒトコラーゲンのリコンビナントペプチドというのは新規的であり、これの上で脂肪幹細胞や内皮細胞を前培養し、細胞の定着や生存、増殖を確認できた。マイクロアレイでは、細胞増殖および創傷治癒に関する遺伝子発現の上昇を認め、放射線障害マウスモデルを用いた動物実験では、高い創治癒促進効果を確認できた。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、本研究の標的となる放射線障害、糖尿病性潰瘍、慢性虚血組織のマウスモデルを作成し、また再生治療ツールとして、移植脂肪の機械的濃縮、リコンビナントペプチドの有用性を確認したほか、脂肪幹細胞や血管内皮細胞の分離、培養に関する方法論を確立できた。
今後は、各種モデルにおける組織肥沃化効果を評価しながら、再生治療ツールの最適化を行い、本研究の最終的な目標である「ヒト臨床試験の準備を完了する」段階に向けて、データを蓄積していく。
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