幹細胞の枯渇状態と考え得る放射線障害組織などの慢性・難治性疾患の病態解析と、その根治的な再生治療の開発研究に取り組んできた。本年度は、これまで行ってきた脂肪組織中の幹細胞濃縮や、マイクロビーズを用いた3次元攪拌培養法による高機能間葉系幹細胞の、放射線障害組織に対する再生治療効果に関する検討を行った。 予備実験として行った、浮遊培養や、熱、低pHをはじめとする様々なストレスを加える方法では、通常の幹細胞を選択的に死滅させ脂肪幹細胞中の高機能幹細胞の割合は増やせるが、絶対数は増やせないことが分かった。これを踏まえ、高機能幹細胞の培養に有利とされる浮遊培養と、細胞がクラスター形成によって中心壊死に至ることなく増殖できるよう直径約100~200μmのマイクロビーズに接着させ、これを攪拌させながら培養する、3次元攪拌培養を行った。結果、多能性マーカーであるSSEA-3、SOX2、Nanog、MYC、KLF4、CD133などを指標とした場合に、これらの陽性細胞数を数倍~十数倍に増加させることに成功した。また本法によって、培養した幹細胞の分化能やネットワーク形成能、コロニー形成能などが通常の幹細胞より向上していることも確認し、放射線障害マウスに対する優れた創傷治癒効果を示した。 以上の取り組みは、放射線皮膚障害をはじめとする、これまで有効な解決法のなかった難治性病変に対する根治治療の確立に重要な貢献をなすと考えており、今後はこれらの研究成果の分析をまとめて、論文発表を予定している。
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